気象系51。(4/24:仮で付けていたタイトルのまま投稿してしまっていたので変更しました。)
J禁、P禁、ご本人様筆頭に各種関係全て当方とは無関係ですのでご理解よろしくお願い致します。

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 微かに鳴った携帯の通知音で目が覚める。眠かったわけではなかったがコタツに入っていると温かいからかいつの間にか眠りに落ちている事も多く、よく潤に発見されては呆れられていた。
 ぼんやりとしながら辺りを見回してみたが、今日は咎める人間は帰ってきていないようでコタツから出ている体がシンと冷えていた。ぶるりと体を震わせてもぞもぞとコタツ布団の中へと入る。

「はあ……ぬくい。」

 冷えすぎていた腕や肩がじんと痺れるのを擦りながら開いたカーテンの隙間からなんとなしに外を見れば雪が降っていた。なるほど、それはこれだけ冷えるわけだ。
 今日は観劇に行くと言っていた。高校時代からの親友が出ている舞台で、千秋楽だからと呼ばれたらしい。来るか?と聞かれたがそんな場所に居ても気まずいだけなので遠慮した。
 薄暗い部屋の中、テーブルの上に置いているデジタルクロックは日付を跨ぐような時間を指している。この時間になっても帰ってこないということは最悪泊って来るのだろう。あいつは出ていない舞台の打ち上げの2次会にまでいるようなやつだから。
 そう考えて冷えていた体がより一層冷たくなる気配がした。ぬくもりを求めてコタツに潜り込むが欲しいのはこれではない。
 ぎゅっと包み込んでくれる強い腕や安心して身を任せられる温かな胸やドキドキと高鳴っているのが伝わる鼓動。愛おしむのを隠さないあの瞳に見つめられたい。
 感傷的になっているのが自分でもわかって苦笑する。潤が友達と出かけていない時はほぼこうなってしまう。
 楽しく過ごしていてくれたらいい、少しでも長く笑っていてくれたらいい。そう思うのは本当なのに、その邪魔もしたくないのに、どうしても寂しさが去来してしまう。潤が笑っている時間に自分も笑って過ごせるようになれればそれが1番いいのは分かっていても。潤といる時が最も楽しいと分かってしまっているので。
 温まった腕をコタツから引き抜いて携帯に触れる。先日出かけた時に録った動画でも見て潤を補給しようとすれば通知に潤のアイコンが見えた。そういえばさっき鳴っていたような気がする。画面をタップしてみるとそれは彼が運用しているSNSからで、キラキラな笑顔と共に件の俳優とのツーショットが乗せられていた。その真っ赤な顔から酔っている事が分かる。
 もやり、とした。
 そのSNSは以前頑張っていた大河専用に運用していたSNSで、それ以外の使い方は模索しているところだと言っていたからこんなに急にプライベートを上げる予定はなかったと思う。スクロールするとファンの子からのコメントも驚愕と歓喜で溢れていた。
 嬉しいよな、嬉しいだろうな、そうだよな。
 他のメンバーに比べて露出の少ない潤からこうして発信されるのは嬉しいよな。その喜びが分かるだけに、俺との温度差になんだか泣きたくなってくる。
 俺も、潤と深い仲にならずに適度な距離を保っていたらこんな風に楽しそうなあいつを見て一緒に楽しく笑う事が出来ただろうか。ひとりで耐えられた寂しさが、潤を知って耐えられなくなる事もなく、一抹の寂しさを抱えながらもよかったな、と心から言える関係でいられただろうか。

「……リセット、してみようか。」

 個人のラインを開いて潤の画面を呼び出す。楽しそうにしているところに水を差すかもしれない。いや、これだけ酔っていたら気付かないかも。ぐるぐる考えて、考えて、俺はぽちぽちと打った文字を送信する事にした。
 ぽん、と送った文字が表示されるのを見つめる。

『だいすき。』

 ……ふふ、意気地なし。
 顔を見て言えるはずもない別れを文字でも言えないなんて。情けない。けれどきっとこれを見られたら友達から冷やかされるだろうから、それを思って留飲を下げよう。
 いつもなら付くのが早い既読もなく流れていくだけの時間に身を任せていればコタツの温かさに引きずられてまた俺は眠りに落ちた。

 トッ、

「……ん?」
「あ、起きた?」
「……じゅん?」
「コタツで寝るなって言ってるでしょ。」

 柔らかな衝撃を背中に受けて目が覚める。焦点の合わない視界でもわかる濃い顔に名前を呼べば、ちゅっと額にキスが落ちてきた。きょろりと視線を巡らせればさっきまでと景色が違う。ここ、寝室か?

「……帰って来たの?」
「だめだったの?」
「泊って来るもんだと……。」
「そうしようかと思ってたけどね。」
「急な仕事でも入ったの?」
「ふふ、今はそんな忙しくないよ、大丈夫。」

 しょぼしょぼするからと目を擦ろうとした手を掴まれる。代わりに目尻にちゅっちゅって口づけられるから目を閉じた。そのまま唇まで軽く吸われる。なんか、甘いんだけど。唇が、じゃなくて仕草が。

「どうした……?」
「何が?」
「浮気?」
「なんで?!」
「浮気すると途端に優しくなるって。」
「は?」

 ぽつりぽつりと喋る。例えばほら、あの写真に写ってた親友の彼とか。なんて事は口に出したりしないけど、楽しそうだった写真と連動してやましい事がある人ほど態度が甘くなるもんだから気をつけろって20年来の親友が言っていたなあとふと思い出してしまった。
 思考がまとまらないうちにぽろりと零れたその言葉は、どうやら潤には寝耳に水だったらしい。不服です、って拗ねた顔が俺に覆いかぶさってきて、かぷりと鼻先を噛まれた。

「んう、」
「オレずっとあんたにはこういう態度だったでしょ。」
「そうだっけ。」
「そうだよ。むしろあんたのが珍しいんだからね?」
「俺?」
「いきなり大好きだけ送ってきて。何かあったのかって急いで帰ってみたらコタツで寝てるし。」
「俺だっていつも言ってると思うけど。」
「そうだけど、飲み会やってる時に送ってくるの多分初めてだよ?だから気になってさ。」
「冷やかされたりした?」
「そうなる前に出て来ちゃったよ。」
「なあんだ。」
「なんだってなんだ。」

 隣に潜り込んだ体がそっと抱きしめてくる。温かな腕。広い胸。とくとくと鳴る心臓の鼓動が俺に伝わってくる。ほっと溜息が出た。安心する。この腕の中が俺の居場所なんだって何度も何度も感じていたのに。寂しさが膨らむとあんな馬鹿な事を考えてしまうようになるのか。
 良かった。別れるだなんてひどい言葉を送らなくて。
 とろりと溶けるこの瞳を曇らせてしまわなくて。
 本当に、良かった。

「寂しくなっちゃった?」
「うん。だからからかわれればいいなと思って。」
「ごめ、」
「謝ったりはしねえでいいの。そういうんじゃねえの。」
「……うん。」
「ただちょっとだけ……ほんの一瞬だけ、俺を思い出してくれたらいいなと思っただけだから。楽しんでるとこ邪魔してごめん。」
「それこそ謝らないでよ。謝るような事してないんだから。」
「そうなの?」
「そうだよ。あとオレはね、誰といても何をしてても智の事思い浮かべるし、いつだって智の事考えてるよ。」
「そうなんだ。」
「そうだよ。言ってなかった?」
「知らなかった。」
「そっか。じゃあ覚えておいて。」
「ん、わかった。」

 いつでも潤の中に俺がいる。一見そうとは見えなくても。
 そう思ったらひとりの寂しさも少しは紛れる気がする。少しだけ、ね。

「また寂しくなったら送っちゃうかも。」
「大好きって?」
「愛してるに進化するかも?」
「キスしに来い、でもいいんだけど、オレは。」
「言わない。」
「なんでだよ。」
「帰って来てほしい訳じゃないんだって。楽しくしててくれてるならいい。邪魔はもうしない。」
「だから邪魔とかじゃないんだってば。オレが智に求めてほしいの。」
「ふふ。」
「また送って?待ってる。」

 甘えるような口づけ。その熱に溶かされて、うん、今は寒くない。
 繰り返されるそれに応えて時々潤の唇を甘噛みしながら、気が向いたらな、と笑った。

***