気象系51。51が兄弟です。まいがとは違います。5の独白。
J禁、P禁、ご本人様筆頭に各種関係全て当方とは無関係ですのでご理解よろしくお願い致します。

***

『智くんなんていらないっ!オレはしょおくんみたいな兄ちゃんが欲しかったのっ!』



 そんな言葉を3歳年上の兄に投げつけたのはオレが13の時。
 しょおくんは頭がよくてノリが良くてグイグイ引っ張ってってくれるリーダーシップのある人で、カリスマ性が凄かったからとっても人気者。兄が小学校に入学したのを機に初めて出会った時からすごく懐いて慕っている近所のお兄ちゃんだ。
 それに比べて実兄の智くんはめんどくさがりでいつも眠そうで話を聞いてるのかどうかも分からないぼんやりで……しょおくんと比べても本当にいいところがない。こんなのが兄だなんてってずっと思ってきた。

『そっか。』

 ひどい言葉を投げつけたってわかってる。自分で言ってて勝手だけど自分も傷ついた言葉を智くんはなんでもない事のようにひと言で流してしまう。それすらも気に入らない。
 オレが何を言ったって何をしたって気にも留めない、見ててもくれない、何も言わない。兄にとってオレはどうでもいい存在なんだ。そう思ったら悔しくて悲しくて涙に濡れた目で睨みつけた顔に思いっきり舌を出して、智くんがオレを見なくなるよりも先に駆けだした。
 その後すぐ言葉を交わさないまま智くんはひとりダンスの勉強をしに京都に行ってしまった。兄がダンスに興味があったこともそのダンスが「無重力」って褒められるほど天才と言われていたことも兄が旅立ってしまってから初めて知った。その時になって初めて……オレがちゃんと兄を見ていない事に気が付いた。オレの目はいつだってしょおくんの背中を追っていて、記憶にあるのはしょおくんとの事ばかりだったから。

「……なんだこれ。……日記?」

 いなくなった兄の部屋は2年ですっかり物置になってしまってて、そこから帽子を出そうとしたオレは崩してしまった山の片付け中、机の下から青い日記帳を見付けた。中には綺麗な文字が並ぶ。父さんの字でも母さんの字でもない。必然的に兄だろう。あの人がこんなに綺麗な文字を書くことも、日記をつけていた事もオレは知らなかった。

 知らないことだらけだ。オレを見てくれないって拗ねてたくせにオレだってちゃんと兄を見てなかった事をまた思い知らされる。どうしようもなくやるせない感情で唇を噛みながらぺらりとページを捲った。

《4月 晴れ 潤の入学式


学ランに着られてるみたいで可愛い。言うと怒るので黙っておく。これからの成長が楽しみ。》


《4月 曇り 可愛い後輩が入ったと話題


しょおくんが教えてくれた。潤ならそうなるだろうと思ったらそうなって嬉しい。兄の欲目抜きにしても可愛いから。》


《4月 晴れ 弁当を忘れる


潤が届けてくれた。反対方向なのに走って追いかけてきてくれて怒られる。素直じゃないところも可愛い弟だ。》



(……なんだ、これ。)


 何も見てないと思ってた。オレなんてどうでもいいって。部屋に籠ってるし反応薄いし、ちっとも構ってくれないし。でもこの日記の中にあるのはオレの些細な事に喜ぶ兄の姿だ。

 テストで良い点を取れたと母さんに報告したことも、友達と喧嘩して泣いてるのも、転んで怪我をしたなんて事まで……オレのことばかり。


(ていうかオレしか見てないじゃん……。)


 どのページを捲ってもオレの様子しか出てこなくてどんどん胸が苦しくなる。心が冷えて、冷えすぎて逆に火傷しそうなくらい熱くて、ぶくぶくと沸き上がってくるこの衝動は何だろう。今突き動かされるまま飛び出したところで合わせる顔なんてないのに。


「……これ、」


 紙を捲っていた手が止まる。びっしり書かれていた日記の最後、日付は忘れもしないオレが兄をなじった日。

 それまでとは違う、たったひと言。

《笑ってる顔が見たかった》

 ぽたぽたと水に滲むその文字がふにゃふにゃになって消えてしまわないように顔を上げて天井を見る。もうずっと、智くんに笑いかけてない。なんなら顔も見てない。正月くらい帰ってこいって父さんが呼んでても帰ってこないのは、オレがいるからだったりしない?遠慮ならいいけど、オレの事……もういいやってなってないかな。

 智くん。オレはまだ間に合いますか?


「……チケット……チケット、取らなきゃ。」

 見えづらい視界を何度も拭って確保しながらオレは京都行きの新幹線に乗るためにお小遣いの前借り交渉をしなければと母のいるリビングへと向かった。


***