気象系5→1。1がモブと結婚しています。5がたぶんヤンデレ。
J禁、P禁、ご本人様筆頭に各種関係全て当方とは無関係ですのでご理解よろしくお願い致します。

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 出会った時にはもう誰かのものだった。
 左手の薬指に光る銀色の事は初めましての挨拶で握手した時に気付いていたがその時は何も思わなかった。美術館を巡るのが趣味だという話から、自主制作をしていると言葉が返ってきてどんどん仲良くなって。連絡を取り合ってご飯を食べに行く日数を指折り数えだす頃には胸を覆うのは苦しい恋慕の情だ。
 この恋が叶うと思った事はない。相手はもう結婚しているストレート。自分から聞くこともなかったし、相手からも話題が上る事はなかったが、どれだけ集まる時間が遅くなっても大野くんはいつも決まった時間に帰宅していた。連絡入れればよくない?もうちょっとダメ?と1度だけ強請った事がある。たまにはオレを優先してよ、そんな子供じみた嫉妬から。けれど大野くんはほとんど酔ってない困った顔で笑って、ごめんなって言って帰ってしまったんだ。
 それからずっと深く聞けない。

「おれ、りこんすんだよねぇ。」

 今日は頻繁に集まっていた居酒屋じゃなくて珍しくオレの家に来たいとか言い出した大野くんと2人きり、いつもなら帰宅する22時を過ぎても帰る素振りを見せない大野くんに、帰らないの?って聞いたら真っ赤な顔をして缶ビールを煽った後でそんな言葉が聞こえた。
 その言葉を本当は少し期待していた。だって彼の左の指にはあの銀色の光がない。会う度に最初に確認してしまう癖がついていたから真っ先に気付いた事。
 ドキドキ跳ねる心臓。緩みそうになる口を押えて神妙な声を出す。

「離婚?」
「うん。」
「するの?」
「うん。」

 ちびちびと両手で缶を持って飲む姿が可愛らしい。いつもよりもずっとずっと赤い顔。オレに勧められるまま飲んでいた可愛い顔が眠そうにとろんとしてる。いつになく無防備な姿にごくりと喉が鳴った。

「だからいえ、かえってもだあれもいねえの。」
「そうなの?」
「うん。」
「それは……寂しいね。」
「んーー?んふふ、そおかなあ。」

 本格的に酔うとあなたそうなるんだね。ふにゃふにゃの笑顔で、でも泣きそうなくらい涙が溜まって潤んだ瞳が宙を見ていた。どこを見ているか分からないそれが嫌で、ねえ、と身を乗り出して視界の中央に居座る。

「今日泊ってく?」
「とまる?」
「うん。オレと居よ。居てよ。」
「ふふふ、まつもっさんと?いいの?」
「いいよ。ずっと居てよ。」
「ふふふふっ、ずっとは、いない……。」
「なんでよ、居てよ。」
「だって、はなれたくなく、な、る……。」

 カツン、と力を無くして落ちた手から缶が転がる。飲み切れてなかった中身がとぷとぷと零れていくのに反応出来ない。
 今、大野くんはなんて言った?ずっと居たらオレと離れられなくなるの?ここはあなたにとってそんなに居心地のいい場所になれてるの?帰りたくなくなるから、あんまりオレの家に来なかった、の?
 聞きたい言葉が山ほど溢れる。けれどすやすやと心地よさそうに眠る大野くんを起こす事は出来なかった。大野くんに伸ばしかけた手は代わりに期待と喜びですぐにいっぱいになって苦しくなった胸を押える。
 このままここから出さずにいたら、大野くんはオレを見てくれる?……オレだけのものに、なってくれる……?
 胸が詰まって発散出来ず溜まって淀んでいく仄暗い欲が、隠れる事なく唇に笑みを刻む。
 まずは大野くんが外に出なくても不自然にならないようにしなくちゃ。他の誰かに盗られるなんてもう嫌だから。
 大野くんの世界にはオレだけでいいって分かってもらえるように頑張らないとね。

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