気象系51。
J禁、P禁、ご本人様筆頭に各種関係全て当方とは無関係ですのでご理解よろしくお願い致します。

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 多くの人から愛されるお前の事を尊敬している。
 俺は俺の大事な人に好きでいてもらえていればそれでいいから、お前のように多くの人を愛してあげる事はできない。だからいつだって全力で家族を、友を、同僚を、スタッフを、作品を愛しぬくお前は凄いと思う。それだけお前の愛は広く深く多いんだろう。
 俺の胸程の背丈しかなかった小さく可愛いお前の記憶が今になってちらつくのはお前の愛を受ける数多の人への嫉妬だろうか。俺はこの頃からお前の事を知っているんだぞ、と。ずっと傍にいるんだぞ、と。
 なんて幼稚なんだろう。

「お邪魔しましたーー!」

 そう言ってぞろぞろと帰っていく背中を頭を下げて見送る。壮絶な現場を1年以上潤と駆け抜けてくれた仲間たち。クランクアップを迎えたこいつをひとりに出来ないと言ってやってきた。
 未だかつてここまで愛される主演はいただろうか。血の滲むような努力と周囲をよく見ている優しさと。時間のある限り人のためにと走り回る潤の事をこんなに多くの人に理解してもらえていたのかと改めて実感する。
 俺にはわからない話と入り込めない空気を感じて、ちょっと出てくるな、と外に出て眠そうな潤の電話で帰ってくるまで寝入る潤の傍についててくれた彼らには感謝してもし足りない。
 こいつはこれで寂しがり屋だからね。……知ってるか。

「どんどん遠くに行っちまうなぁ。」

 すやすや眠る潤の髪を梳いてやろうとして、起こしたくなくてやめた。帰っていった彼らのデキ上がり具合からしてこいつも相当飲んでるはずだからきっと撫でたくらいじゃ起きやしないとは思うけど。やっとぐっすり眠れるようになったんだからたっぷりと眠ってほしい。起きてからいくらでも構ってもらえるんだから。

「……ガキだなぁ俺。」

 そんな事を考えてる時点で負けてる。絵を描く時のBGMにしてる曲の歌詞を思い出して自分自身に苦く笑った。

「おやすみ、潤。ゆっくり休め。」

 結局潤に触れる事なく部屋を出る。こういう時は粘土を捏ねるに限る。あのぐにぐにした柔らかい弾力と無限に形を変える性質はいくらやっても飽きないから気持ちがもやもやしてしまった時には最適だった。
 自室に籠って捏ねて捏ねて。何かの形を作るわけでもなく手のひらで転がし続けてふと気づくと窓の外から小鳥のさえずりが聞こえてきた。遠くでバイクの排気音がする。新聞配達だろうか。走っては止まって、止まっては走って。そのリズムに気付いた時喉が渇いている事に思い至った。
 立ち上がるとバキバキに固まってしまった足が鳴る。何度か柔軟をしてリビングへと向かう。
 水を汲み喉を潤すと、ぼすっと背中が重くなる。

「んっ?」
「なぁんでとなりいないの……?」
「潤?起きたのか。」

 ずっしりと全体重を預けてくる体が熱い。顔の横から漂う呼気が酒気を帯びていてやっぱりかなり飲んでいたようだ。というかまだ酔っぱらってるな?これ。

「まだ寝てて大丈夫だぞ。」
「さとしは?」
「俺はもうちょっと。」
「……じゃあおきてる。」
「寝とけ。」
「さとしがねないとおれもねない!」
「いや寝ろよ。」

 前に回された手がぎゅうぎゅう俺の腹を潰してくる。苦しい。腹もだけど、胸が苦しい。

「なあ潤?」
「んーー?」
「みんなに愛されてるお前のことを誇りに思うよ。」

 抱きしめてくる手に手を重ねてぐるぐるする気持ちをぐっと凝縮して出した言葉をぶつける。
 なんであれどうであれ俺はこいつの全てに惚れてるし、全部が誇らしいんだ。

「ほんと?うれしい。」
「……うん。」
「オレ、あなたにおいつけてきたのかな?」
「え?っおわっ!」

 ずるっと潤の足が滑って体勢を崩す。両ひざをついてなんとか踏ん張ったけどさすがに支えきれなくて潤を床に転がした。覗き込んだ顔はすうすう気持ちよさそうに眠り込んでいる。
 俺の聞き間違いじゃなかったらこいつの目標って俺……なのかな?
 お前の方がずっと先に行ってるっていうのに?

「こりゃあ大人しく休んでる場合じゃねえな。」

 潤が今も俺を追いかけてきてくれてるっていうんなら、そう思ってくれるなら。
 ずっと前を歩いて背中を見せていられる俺でいよう。

「つかどうしよ。こいつベッドまで運ぶの無理じゃね?重くね?」

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