気象系51。モブ視点。最後ほんのりモブ→1ぽく終わります。
J禁、P禁、ご本人様筆頭に各種関係全て当方とは無関係ですのでご理解よろしくお願い致します。
***
夜勤のシフトは正直あまり入りたくない。酔っぱらいの相手だったり面倒そうなヤンキーの相手だったり残業疲れで返事もしないサラリーマン相手だったり。品だしだけしてりゃあいいってもんじゃないのが、俺の想像と違っててコンビニってこんな大変だったんだと思い知る。
かと言って人が来ないと寝そうになるし。繁華街から外れた場所にあるここは駐車場もないから本当に人が来ないんだよなあ。だから楽かと思ってたのに……。はあ。今も深夜の1時を超えているからか店内はガラガラだ。仕方ない。ショーケースの霜取りと洗浄でもすっか。ぼんやり立ってたらマジで寝そうだし。そう思って既に綺麗なレジを無駄に拭いてた雑巾を元に戻してホースを引っ張り出そうとした所でチリリリンとベルが鳴った。
「っしゃーーませーー。」
ここは入り口とは反対のトイレの前。どうせ立ち上がったところで棚が邪魔をして俺の身長じゃあ客は見えない。だから振り向きもせずに声だけかけて持ってたホースを引っ張る。レジに来たらベルで呼ぶだろうって放っておいたらすぐ近くで「あの、」と控えめな声がかけられた。
「はい?」
しゃがんだまま顔を上げたら若そうな男が1人。眠そうな目でこっちを見下ろしてる。モデルでもやってそうな綺麗な顔……とまでは言わないけど可愛い感じの男が「カレーパンはありますか?」なんて聞いてきた。
ここはパン屋の会社が運営するパン特化のコンビニでその中でも主力なのがカレーパンだ。ふわふわジューシーなカレーパン。リピーターも多いそれはレジ前のショーケースの中でも特に人気で本部からも切らすことのないようにって指示されていた。が、間の悪い事にさっき買い物に来た客が1度に3つ買って帰ってから補充してなかった。深夜だからいいだろうと思ってたらこれだ。さすが人気商品。って言ってる場合じゃない。要望があれば揚げるけど今フライヤーの火は落ちている。油を温めるまでにも時間がかかるぞ。
「すみません。揚げるのに10分ほどお時間頂いてもよろしいでしょうか?」
この時間に10分は厳しいだろ。コンビニの平均利用時間はだいたい5分。深夜は特に目的のものだけ手に入れてさっさと帰る客ばかりだからこの時間のみで言えばもっと短い。倍以上の時間店内をうろついて暇をつぶせるようなアイテムは少ないし、普通はそんなに掛かるなら諦めて帰る。けど無理って事を察してほしい俺にそいつはニッコリ笑って「大丈夫です。2つお願いします。」っつってきた。
手に持った雑誌はただ開いてるだけなのかパラパラと読むというより見ているだけで興味が引かれるものがなかったんだろう。途中からパララララ……っと高速で捲っただけで元に戻してしまった。その瞬間チリリリンとまたベルが鳴る。
「っしゃーーま、」
「智!」
「せーー……。」
条件反射で迎え入れた俺の声を遮るように大きな声が響き渡る。他に客がいなかったからいいけど普通にご近所迷惑です。夜中に大声を出すんじゃない。
そんな俺の心の声なんて届くはずもなく入ってきたグラサンの男はヅカヅカと眠そうな男に近づいて行く。
うっわお知り合いですか?ダボダボスウェットの男とヒョウ柄のジャケット着たギラギラな男が……?ええ……世の中って広い……。いや狭い?ていうかちゃんとしたオトモダチなんだよな?ヤのつく人とかじゃねえよな?面倒ごとはマジ勘弁なんだけど!
ヒクリと口が引きつってると1回目のタイマーが鳴る。油の温度が規定値に達した合図だ。すかさず冷凍のカレーパンを投入した。出来れば規定値を超えて早くカラッと揚げたいところだけれど所詮俺はマニュアル人間なのでそれが出来ない。臆病な自分に舌打ちしながら面倒ごとに巻き込まれる前にとモニターと油のタイマーとを見比べて早く揚がれ早く!って念じたところで時間が進むわけでもない。さっさとお買い上げいただいてご帰宅願いたいっていうのに……これだから深夜シフトは入りたくないんだ。時給が上がってても遠慮したいと改めて思う。
はああ~~て深くため息を吐きながら大人しくしてくれてるかを確認しようと目を離していたモニターを改めて見れば、2人はガラス前の雑誌棚から奥の冷凍食品のコーナーに移っていた。
……え?
いやいや。
いやいやいや。
そんなまさか、そんな……?
何度目を瞬かせても擦ってみても見えてる光景は変わらない。
……キス、してる、よな。あれどう見ても。グラサンの男に結構ガッチリ頭固定されて、スウェットの男の手が縋るみたいにグラサンの腕に引っかかってるのが映ってる。映ってますよお2人さん!!
てか意識すればレジを繋ぐ開けっ放しのドアの向こうから店内音楽に隠れて聞こえちゃいけないもんが聞こえてきそうなくらい濃厚に貪り合ってるのが伝わってくるんですけど。
「マジか……。」
高校生くらいの初々しいカップルがこっそり手繋いでたりとか掠めるようなキスしてたりすんのはまあ、見たことがない事もない。初めてのデートですか?浮かれてんなって感じでハイハイって思うんだけど……。まさかのこの深夜のド真ん中に、男同士で、接点なさそうな2人がキス。度胸が凄いのかバカなのか、は聞く勇気が持てねえからサッと視線を反らして見なかった事にした。なんせこれから俺はこれが揚がった事を知らせて金を貰わなければならないからだ。
バクバク脈打つ心臓をぎゅっと握る。
でももうちょっと心を落ち着けてから挑みたい……なんて願いも空しくピピピピピとタイマーの鳴る音がして俺はガックリと肩を落とした。
「お待たせしゃーーしたあーー……。」
「っあ、はあい。」
呼んだ時にまだキスしてたかどうかはもうモニターを見る勇気が出なくて知らないが、焦りを含んだ濡れた声音でたぶんまだシてたんだろうなと察する。察してしまう自分が嫌過ぎる。
平静に。平静に。
俯き加減の視界の端にぽてぽてとスウェットの男が近づいてきたから「もうお会計でよろしいですか。」と声をかけてうっかり顔を上げるとあの眠そうなスウェットの男が頼んだのだからてっきり会計も男がするもんだと思っていたら目の前に立っているのはグラサンの方で……。スウェットの男の方はグラサンの男に肩に手を回されて抱き寄せられているようだった。
俺よりも高い位置からじっと見下ろしてくる目は黒いレンズの裏で見えないが、絶対睨まれてる。睨まれてる気配しかしない。
「えと、」
「いくら?」
「あっひゃい!326円ですっ!」
「ん。」
カレーパンを詰めたレジ袋をジッと見つめる事で視線をかわしながら支払いを待つ。タッチパネルで決済を終えたグラサンの男が差し出した手に持ち手を引っかけると「どうも。」短い挨拶と共に気配が離れていく。
威圧感すげえ!息が出来ないかと思った……。
チリチリした緊張感から解放された安堵で気が緩んでチリリリンと鳴ったベルにまた条件反射で顔をあげて「あざっしたーー。」と声を上げた、その瞬間。こちらを見るスウェットの男と目が合った。
そりゃあ大声で呼びもするだろう。夜中に1人で出歩かせるには危なすぎる物件だ。どこぞで襲われてる姿が容易に目に浮かぶ。
ともすれば、俺も。
「あーーくっそ、さいあくだ。」
この後もまだ仕事が残っていることを考えて、たったあれだけで熱を持ってしまった下肢にため息を吐く。空しくなりながらもひっそりと、またスウェットの男が来店する事を願った。
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J禁、P禁、ご本人様筆頭に各種関係全て当方とは無関係ですのでご理解よろしくお願い致します。
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夜勤のシフトは正直あまり入りたくない。酔っぱらいの相手だったり面倒そうなヤンキーの相手だったり残業疲れで返事もしないサラリーマン相手だったり。品だしだけしてりゃあいいってもんじゃないのが、俺の想像と違っててコンビニってこんな大変だったんだと思い知る。
かと言って人が来ないと寝そうになるし。繁華街から外れた場所にあるここは駐車場もないから本当に人が来ないんだよなあ。だから楽かと思ってたのに……。はあ。今も深夜の1時を超えているからか店内はガラガラだ。仕方ない。ショーケースの霜取りと洗浄でもすっか。ぼんやり立ってたらマジで寝そうだし。そう思って既に綺麗なレジを無駄に拭いてた雑巾を元に戻してホースを引っ張り出そうとした所でチリリリンとベルが鳴った。
「っしゃーーませーー。」
ここは入り口とは反対のトイレの前。どうせ立ち上がったところで棚が邪魔をして俺の身長じゃあ客は見えない。だから振り向きもせずに声だけかけて持ってたホースを引っ張る。レジに来たらベルで呼ぶだろうって放っておいたらすぐ近くで「あの、」と控えめな声がかけられた。
「はい?」
しゃがんだまま顔を上げたら若そうな男が1人。眠そうな目でこっちを見下ろしてる。モデルでもやってそうな綺麗な顔……とまでは言わないけど可愛い感じの男が「カレーパンはありますか?」なんて聞いてきた。
ここはパン屋の会社が運営するパン特化のコンビニでその中でも主力なのがカレーパンだ。ふわふわジューシーなカレーパン。リピーターも多いそれはレジ前のショーケースの中でも特に人気で本部からも切らすことのないようにって指示されていた。が、間の悪い事にさっき買い物に来た客が1度に3つ買って帰ってから補充してなかった。深夜だからいいだろうと思ってたらこれだ。さすが人気商品。って言ってる場合じゃない。要望があれば揚げるけど今フライヤーの火は落ちている。油を温めるまでにも時間がかかるぞ。
「すみません。揚げるのに10分ほどお時間頂いてもよろしいでしょうか?」
この時間に10分は厳しいだろ。コンビニの平均利用時間はだいたい5分。深夜は特に目的のものだけ手に入れてさっさと帰る客ばかりだからこの時間のみで言えばもっと短い。倍以上の時間店内をうろついて暇をつぶせるようなアイテムは少ないし、普通はそんなに掛かるなら諦めて帰る。けど無理って事を察してほしい俺にそいつはニッコリ笑って「大丈夫です。2つお願いします。」っつってきた。
おお……思ってたより察しが悪い人種だった。いや眠くて頭回ってねえのかもしかして?どっちでもいいけど頼まれたからには揚げなくちゃいけない。仕方ないから「店内で少々お待ちください。」と告げて立ち上がって裏へ。備え付けの小型のフライヤーに火を点けて温度が上がるのを待つ。その間防犯カメラには雑誌のコーナーで立ち読みする男が映っている。
こんな時間だからかスウェット姿。ポケットに小銭だけ入れてやってきたんだろうあまりにもラフな格好だった。まあ近所に住んでるやつはだいたいそうだ。日本っていう治安のせいかどうにも防犯意識が薄いというか……。そもそも寝ぼけ眼でやってくる辺り大丈夫かよって感じだけども。夜はちゃんと寝ろ。手に持った雑誌はただ開いてるだけなのかパラパラと読むというより見ているだけで興味が引かれるものがなかったんだろう。途中からパララララ……っと高速で捲っただけで元に戻してしまった。その瞬間チリリリンとまたベルが鳴る。
「っしゃーーま、」
「智!」
「せーー……。」
条件反射で迎え入れた俺の声を遮るように大きな声が響き渡る。他に客がいなかったからいいけど普通にご近所迷惑です。夜中に大声を出すんじゃない。
そんな俺の心の声なんて届くはずもなく入ってきたグラサンの男はヅカヅカと眠そうな男に近づいて行く。
うっわお知り合いですか?ダボダボスウェットの男とヒョウ柄のジャケット着たギラギラな男が……?ええ……世の中って広い……。いや狭い?ていうかちゃんとしたオトモダチなんだよな?ヤのつく人とかじゃねえよな?面倒ごとはマジ勘弁なんだけど!
ヒクリと口が引きつってると1回目のタイマーが鳴る。油の温度が規定値に達した合図だ。すかさず冷凍のカレーパンを投入した。出来れば規定値を超えて早くカラッと揚げたいところだけれど所詮俺はマニュアル人間なのでそれが出来ない。臆病な自分に舌打ちしながら面倒ごとに巻き込まれる前にとモニターと油のタイマーとを見比べて早く揚がれ早く!って念じたところで時間が進むわけでもない。さっさとお買い上げいただいてご帰宅願いたいっていうのに……これだから深夜シフトは入りたくないんだ。時給が上がってても遠慮したいと改めて思う。
はああ~~て深くため息を吐きながら大人しくしてくれてるかを確認しようと目を離していたモニターを改めて見れば、2人はガラス前の雑誌棚から奥の冷凍食品のコーナーに移っていた。
……え?
いやいや。
いやいやいや。
そんなまさか、そんな……?
何度目を瞬かせても擦ってみても見えてる光景は変わらない。
……キス、してる、よな。あれどう見ても。グラサンの男に結構ガッチリ頭固定されて、スウェットの男の手が縋るみたいにグラサンの腕に引っかかってるのが映ってる。映ってますよお2人さん!!
てか意識すればレジを繋ぐ開けっ放しのドアの向こうから店内音楽に隠れて聞こえちゃいけないもんが聞こえてきそうなくらい濃厚に貪り合ってるのが伝わってくるんですけど。
「マジか……。」
高校生くらいの初々しいカップルがこっそり手繋いでたりとか掠めるようなキスしてたりすんのはまあ、見たことがない事もない。初めてのデートですか?浮かれてんなって感じでハイハイって思うんだけど……。まさかのこの深夜のド真ん中に、男同士で、接点なさそうな2人がキス。度胸が凄いのかバカなのか、は聞く勇気が持てねえからサッと視線を反らして見なかった事にした。なんせこれから俺はこれが揚がった事を知らせて金を貰わなければならないからだ。
バクバク脈打つ心臓をぎゅっと握る。
ちょっとミッション難易度高くないか?……普通ですか、そうですか。
でももうちょっと心を落ち着けてから挑みたい……なんて願いも空しくピピピピピとタイマーの鳴る音がして俺はガックリと肩を落とした。
「お待たせしゃーーしたあーー……。」
「っあ、はあい。」
呼んだ時にまだキスしてたかどうかはもうモニターを見る勇気が出なくて知らないが、焦りを含んだ濡れた声音でたぶんまだシてたんだろうなと察する。察してしまう自分が嫌過ぎる。
平静に。平静に。
俯き加減の視界の端にぽてぽてとスウェットの男が近づいてきたから「もうお会計でよろしいですか。」と声をかけてうっかり顔を上げるとあの眠そうなスウェットの男が頼んだのだからてっきり会計も男がするもんだと思っていたら目の前に立っているのはグラサンの方で……。スウェットの男の方はグラサンの男に肩に手を回されて抱き寄せられているようだった。
俺よりも高い位置からじっと見下ろしてくる目は黒いレンズの裏で見えないが、絶対睨まれてる。睨まれてる気配しかしない。
「えと、」
「いくら?」
「あっひゃい!326円ですっ!」
「ん。」
カレーパンを詰めたレジ袋をジッと見つめる事で視線をかわしながら支払いを待つ。タッチパネルで決済を終えたグラサンの男が差し出した手に持ち手を引っかけると「どうも。」短い挨拶と共に気配が離れていく。
威圧感すげえ!息が出来ないかと思った……。
チリチリした緊張感から解放された安堵で気が緩んでチリリリンと鳴ったベルにまた条件反射で顔をあげて「あざっしたーー。」と声を上げた、その瞬間。こちらを見るスウェットの男と目が合った。
口パクで「ありがと。」と微笑んできた男の、キスでちょっと高揚した頬と潤んだ瞳、濡れた唇が目に飛び込んできて固まる。直ぐにグラサンの男の手が彼の顔を隠して見えなくさせていったけど、あれはかなり色っぽかった。
俺にソッチの気はないっていうのに、下肢に直撃でクるくらいには妖艶で……なのに小さく微笑む可憐さを兼ね備えてる危ういバランスがそそられる男。そりゃあ大声で呼びもするだろう。夜中に1人で出歩かせるには危なすぎる物件だ。どこぞで襲われてる姿が容易に目に浮かぶ。
ともすれば、俺も。
「あーーくっそ、さいあくだ。」
この後もまだ仕事が残っていることを考えて、たったあれだけで熱を持ってしまった下肢にため息を吐く。空しくなりながらもひっそりと、またスウェットの男が来店する事を願った。
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