今回のお酒はスペシャルなお酒。
 秋田県潟上市の銘酒『大平山』の特別バージョン『Yoshinori Ohsumi(大隅良典)』です。
 




 大隅良典教授といえば、オートファジーの研究の成果により2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞された方ですね。
 
参考
『大隅良典 ‐ Wikipedia』
(『Wikipedia』より)
 
 ノーベル賞受賞の栄誉を称えるお酒であることは間違いないのですが、このお酒、ただ栄誉を称えるだけのお酒ではありません。



 まず、このお酒を企画するにあたり、東京工業大学の卒業生の蔵元から出して欲しいとの大学からの要請を受け、そこで小玉醸造様の社長が東工大工学部卒業ということもあり白羽の矢が立ったとか。このことから、ラベルには東工大の名前が刻まれています。東工大OBが醸したお酒という証明ですね。
 また、裏ラベルに記載されていますが、大隅教授がオートファジーの研究において日本酒の醸造に大きく関わっている酵母を利用して行われていたとのことです。ラベルの絵柄はオートファジーにも欠かせない酵母の絵柄でもあります。
 あとこれは愛知県お住まいの日本酒好きは知っておきたいことですが、大隅教授がオートファジーの研究を主に行っていた場所は基礎生物学研究所という岡崎市にある研究所です。愛知県の日本酒のひとつ(岡崎だから『長譽』『孝の司』かな?)が、ひょっとしたらノーベル賞に繋がったのかもしれないと思うと僕としてはロマンを覚えます。
 
 なお、オートファジーとは"自食"という意味。
 生物が絶食状態となったとしても、細胞の中にあるたんぱく質をアミノ酸に分解し、エネルギーに変換することで保つことができます。このたんぱく質を分解する作用がオートファジーの機能ですね。
 要は、食べ物をしばらく食べなくてもオートファジーの効果で蓄えていたたんぱく質をエネルギーにするから死にはしないってことですし、食事制限をすると余計なたんぱく質をオートファジーの効果で食べてくれるから痩せられるということです。
 
 とまぁ、こんな由来のお酒なわけですが、今回はお酒を飲んだ感想がどうこうよりも、お酒のなかにある物語を呑むことのほうが重要なお酒。
 ですけど感想は書きます。それもお酒を形作る物語のひとつでありますし、吟味するのは飲む人の指命ゆえ。
 
 上立ち香は上品な吟醸香。
 味わいは、甘味メインでこしあんのような印象で、40%磨いた高精白の純大吟だけあって優しくも幽玄。含んだとき、燻製というか、井草のような香りも鼻腔をくすぐります。
 酸味は控えめですが甘味もしつこくなく、収斂されて穏やかに切れるタイプ。緻密で複雑な構造式のもと造られていながらも、全体的に上品なつくりのお酒ですね。
 この丁寧なつくりのなかにはきっと、東工大のOBとしての矜恃とか詰まってるんだろうなぁ。つくづく日本酒とは物語があるんだなって。