僕は日本酒を飲むたびに、「もし、日本酒でありながら日本酒を凌駕するお酒があるのだとしたら」ということを思うことがあるのです。
 要は圧倒的なまでに個性を特化させた存在です。そしてそうした唯一無二の存在こそが、"味わう日本酒としては"到達点にあると云えます。

 僕はそうした理由で推している銘柄があります。『風の森』です。





 よく思うのですが、「天は二物を与えず」という言葉は嘘じゃないのかと。
 
 『風の森』の油長酒造様は奈良県御所市の銘酒。この地域には『篠峯』『櫛羅』で知られる千代酒造様もあります。どちらも
「日本酒を凌駕する日本酒」を作らんとする実力がある蔵元です(しかも割りとご近所)。
 下手したら三物かも。僕は飲んだことありませんが、御所市だと葛城酒造様の『百楽門』というお酒も美味いと聞きますし。
 
 『篠峯』は確かに鳥肌が立つほど力強さこそありますが、あくまでそれは日本酒のテーゼに従ったなかでの凄みでした。しかし『風の森』はあまりに顕著です。シャンパーニュの如くに泡由来の旨味を含ませながらも、それに頼らない下地を秘めているのが分かるお酒。つまりワンアンドオンリーの蔵元と言えるところがあるからです。







 岡山県産雄町100%使用
 精米歩合 80%
 アルコール分 17度
 2016BY

 無濾過無加水生酒であり、水は金剛葛城山系の深層地下水を使用。214mg/Lの超硬水ということは、だいぶミネラルの効いた旨口になるということですかね。
 そして精米歩合80%の低精白。低精白のお酒は『昇龍蓬莱 山田錦77』以来ですか。
 今回は雄町です。雄町は低精白だと本来の旨味が出やすいという話を聞きますが果たして……


【開栓直後】




 『風の森』はこうして押さえつけないとキャップがぶっ飛びます。

 セメダイ……酢酸エチル系の上立ち香を感じますが、まぁ必要悪でしょう。
 泡とともに立ちのぼる旨味。少し苦味を伴った米のジューシーな旨味が入り込んでくる。炭酸も旨味を引き伸ばしてくれる。そして雄町らしいコクとリンゴのような香り。





 アテはたこぶつwithヒゲタしょうゆ。アミノ酸同士がぶつかり合い、かなりいい相性。

【開栓1日目】
 炭酸が多少抜けてきまして、この流れるように美しく豊かな酸味が効いてくるんですよね。
 この日のアテは「干からびたチーズ」ことミモレット。このチーズのカラスミみたいな濃厚さにも負けない味の強みがあるため、こちらはうまくマリアージュ。
 渋みが少しあるものの濃醇な旨味全開の雄町は赤ワインにも近いため、酸味があるからミルキーな味わいがあるチーズとは相性いいのかも。カマンベールやブリーも良さそう。

【開栓2日目】
 炭酸がだいぶ抜けてきました。
 チーズとはやっぱり相性よし。サーモンともまあまあ。
 酸味が存在感ありますね。『長珍 備前雄町7-65』もそうだったんですが、雄町は酸味が効いてると僕は美味く感じるのです。

【開栓3日目】
 炭酸は無くなりました。
 が、特徴的な酸味がまだ生きています。そしてジューシーな味わいは健在。なんという完成度か。
 改めて『風の森』って、炭酸由来の酸味に頼って無いんだなぁ。炭酸はあくまで上手に利用しているだけであって。



 ※写真はイメージです
 
 そして最後は燗につけてみました。ぬる燗ぐらいの温度に設定。
 この飲み方は以前、地元の酒屋さんから「『風の森』は炭酸が抜けたあとにお燗にすると美味い」と教わったんですよね。
 酸が突き抜ける!全身を疾風のように駆け巡る酸味にノックアウト!
 文字通りのラストスパートというやつです。最後まで楽しませてくれました。

 しかし本当に唯一無二だなぁ。『ラーメン二郎』が「ラーメンではなく二郎という食べ物」だと言われるように、『風の森』も「日本酒を超えた風の森というお酒」じゃないかと思うくらい。たまらんです。ええ。




クリックよろしくお願いいたします
にほんブログ村 酒ブログ 日本酒・地酒へ
にほんブログ村