日本の歴史と文化を楽しむ会            令和元年11月10日                 

菊池秀夫講演資料          港区立生涯学習センター新橋ばるーん 

                 

「『古事記』に記されている場所」

 

今回の講演は地名を中心にして『古事記』の神代の時代の話しをします。

地名は『日本書紀』との対比を行なえば、より鮮明になるかもしれませんが、地名の研究が目的ではなく、物語の内容を伝えるのが目的です。物語の流を重視して話しをすすめたいと思います。神様はカタカナ表記で敬称は省かせていただきます。皆さんが個々に神話の世界をイメージできればよいと思います。

 

オノゴロ島

『古事記』の本文の中で最初に登場するのがオノゴロ島です。オノゴロ島はイ

ザナギとイザナミがまぐわいをして子供をつくった場所です。最初に生まれたのがヒルコでした。

 オノゴロ島は淡路島近くの沼島が有力な候補地となっています。オノゴロ島は『古事記』の仁徳天皇が黒日売(くろひめ)を追い、吉備の国に行幸する道中で詠った歌にも登場します。『釈日本紀』(鎌倉時代後期成立)ではオノゴロ島を沼島としています。本居宣長は『古事記伝』で淡路島北端の絵島としています。オノゴロ島は淡路島近くの島という説が主流となっています。

 淡路島には伊弉諾神宮(いざなぎじんぐう)があり、『延喜式』(927年成立)にも「淡路伊佐奈伎神社名神大」と記載されています。

淡路島では近年、考古学的に弥生時代の重要な遺跡が発見されています。淡路島市の五斗長垣内遺跡(ごっさかいといせき)で、弥生時代後期の国内最大規模の鉄器製造遺跡群が2001年に発見されました。弥生時代の鉄製品の出土物のほとんどは九州や山陰地方に集中しており、関西ではほとんど出土しませんでした。この発見は大きな衝撃でした。

もう一つの大きな発見は2015年に南あわじ市で発見された松帆銅鐸(まつほどうたく)で、科学分析をした結果、弥生時代中期前半の最古級の銅鐸であることが判明しました。記紀神話のイザナギとイザナミが活躍する年代がどの時代に該当するのか分かりませんが、淡路島は古墳時代以前から重要な地域であったことは推測できます。

 

国生み

 正しい子供のつくりかたを知ったイザナギとイザナミは次々と子供を生みます。地名と思われる記述が22件あります。

 

淡道之穂之狭別島(あわじのほのさわけのしま)・・・淡路島

伊予之二名島(いよのふたなのしま)・・・四国の総称

愛比売(えひめ)

讃岐国(さぬきのくに)・・・香川県

粟国(あはのくに)・・・徳島県

土左国・・・高知県

隠伎之三子島(おきのみつこのしま)・・・隠岐島

筑紫島・・・九州

筑紫国・・・筑前と筑後(福岡県)

豊国(とよのくに)・・・豊前と豊後(大分県)

肥国(ひのくに)・・・肥前と肥後(熊本県と佐賀・長崎両県)

熊曾国(くまそのくに)・・・熊国と會国(熊本県何部と鹿児島県と宮崎県南部)

伊伎島(いきのしま)・・・壱岐島

津島(つしま)・・・対馬

佐渡島(さどのしま)・・・佐渡島

大倭豊秋津島(おおやまととよあきつしま)・・・大和国を中心とする畿内地方

吉備児島(きびのこしま)・・・児島半島

小豆島(あずきしま)・・・小豆島

大島(おおしま)・・・山口県の大島

女島(ひめしま)・・・大分県の国東半島の北にある姫島

知訶島(ちかのしま)・・・長崎県の五島列島

両児島(ふたごのしま)・・・五島列島の南の男女群島の男島・女島

 

四国と九州のことは詳細に説明されていますが、近畿・山陰と東日本の情報が少ない内容となっています。『古事記』では淡路島を基点として四国と九州に展開がひろがっているように思います。

この後、イザナミとイザナミは国生みの後、次々と神々を生んでいきます。

 

火の神、迦具土神(かぐつちのかみ)

イザナミは火の神を生んだときになくなられ、出雲国(いずものくに)と伯伎国(ははきのくに)の堺の比婆之山(ひばのやま)に葬られます。

比婆の山・・・島根県と広島県の境の比婆山連峰の中の山

イザナギは火の神ガクツチを十拳剣で切り、飛び散った血と死んだカグツチの身体から神々が生まれます。

 

黄泉(よみ)の国

イザナギはイザナミに会いたいと思い、黄泉国(よもつくに)へと追います。

黄泉国・・・死の国

イザナギはイザナミを戻ること説得しますが、イザナミは「黄泉の国の食べ物を食べてしまい戻れない」と答え、黄泉神と相談します。その間イザナミは自分を見ないでとイザナギに告げましたが、イザナギは待ちきれなくなりイザナミの遺体を見てしまいます。イザナミの身体は蛆がたかり、八つの雷神がいました。

これを見たイザナギは逃げ帰ろうとしますが、イザナミは恥をかかせたと怒り、次々と追っ手を遣わした。イザナギはいろいろな方策で防ぎます。イザナギは助けてもらった桃の実に「葦原中国(あしはらのなかつくに)でも助けてください」と言います。イザナギはついに、黄泉比良坂でイザナミに追いつかれてしまいます。

イザナミは「あなたの国の人を一日千人殺します」と言うと、イザナギは「一日千五百の産屋を建てる」と言って決別します。

葦原中国・・・葦の生えている天と黄泉国の間の国

黄泉比良坂・・・出雲国の伊賦夜坂(いふやさか)

 

禊祓いと三貴子

イザナギは身体を清めるために竺紫(つくし)の日向(ひむか)の橘(たちばな)の小門(おど)の阿波岐原(あわぎはら)で禊をします。

竺紫・・・九州

日向・・・日向国

橘の小門の阿波岐原・・・確定されていない(祝詞にも登場する重要な場所)

宮崎市阿波岐原の江田神社の境内に「みそぎ池」があります。江田神社の祭伸はイザナギで、『延喜式』に記載されている神社です。神社の近くには弥生時代~古墳時代初期の遺跡があります。

禊の間に多くの神々が生まれます。最後にアマテラスとツクヨミとスサノオが生まれ、イザナギはアマテラスに高天原を治めるように命じます。

神(かむ)やらい

スサノオはイザナギに海原を治めるように命じられるが、泣きわめいて従おうとしません。イザナギが理由を聞くと、スサノオは「母のいる根の堅州国(かたすくに)に行きたい」と答えます。

根の堅州国・・・?

イザナギは怒り、スサノオを追放(やらい)します。そしてイザナギは淡海(おうみ)の多賀(たが)に鎮座されます。

淡海の多賀・・・滋賀県多賀町の多賀神社

 

うけひ

スサノオの行いに疑問を持ったアマテラスは潔白で邪心がないという証明を求め、スサノオは天安河(あめのやすのかわ)で誓約(うけひ)を提案します。

天安河・・・?

うけひにより、五柱の男子と三柱の女子が誕生します。三柱は胸形(むなかた)の宮に鎮座されます。

胸形・・・福岡県の宗像神社

五柱のアメノホヒの子タケヒラトリは、出雲国造(いずものくにのみやつこ)・無邪志(むさしのくに)国造・上菟上(かみつうなかみ)国造・下菟上(しもつうなかみ)国造・伊自牟(いじむ)国造・津島県直(つしまのあがたのあたえ)・遠江(とおつおうみ)国造等の租神です。

アマツヒコネは、凡川内(おうしこうち)国造・額田部湯坐連(ぬかたべのゆえのむらじ)・茨木(うばらき)国造・倭田中直(やまとのたなかのあたい)・山代(やましろ)国造・馬来田(うまくだの)国造・道尻岐閇(みちのしりきえ)国造・周芳(すおう)国造・倭淹知造(やまとのあむちのみやつこ)・高市県主(たけちのあがたぬし)・蒲生稲寸(かもうのいなき)・三枝部造(さきくさべのみやつこ)等の租神です。

 

出雲、無邪志・・・武蔵、上菟上、下菟上、伊自牟・・・千葉県夷隅(いすみ)郡、津島県直、遠江、凡川内・・・河内国、額田部・・・大和国平群郡と河内国河内郡、茨木、倭田中、・山代、・馬来田・・・上総国望陀郡(まうたのぐん)、道尻岐閇、周芳、倭淹知・・・奈良県磯城(しき)郡、高市、蒲生・・・滋賀県蒲生郡、三枝部

 

天(あま)の石屋戸(いわと)

スサノオの狼藉は続き、アマテラスは天の石屋戸にこもります。神々は天の安原(やすのかわ)の河原に集まり、対策を考えます。アメノコヤネが祝詞を唱え、アメノウズメが神がかりして半裸になると神々はいっせいに笑い出します。

アマテラスが不思議に思って石屋戸を少しあけた時にアメノコヤネとフトダマが鏡をさしだします。アマテラスがのぞこうとした時に、アメノタジカラノオがアマテラスを外に引き出します。八百万の神々はスサノオを追放します。

 

*引用資料・・『日本の神話』(戎光祥出版)、『古事記(上)』(講談社学術文庫)