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最近、街中でストリートピアノをよく見かけるようになった。以前よりNHKで海外の駅や空港に置かれたストリートピアノの番組を観ていて、日本にもこういう環境や文化が根付くといいなあと感じていたが、国内でも数年前に宮崎のストリートピアノがテレビで取り上げられたりして、ここ数年の間に全国的に拡がってきたようだ。自分も昨年、横浜でストリートピアノに初めて遭遇し、運よく弾くことができた。

番組を観る時の最大の関心時は、人々がどんな曲を弾いているか、という点。ほとんどの人は暗譜で弾けるような馴染みのある得意曲のはずだが、そこには思い出が詰まっていたり、その人の人生が反映された曲だったりして、人それぞれにドラマがあり、実に興味深い。ユニークなのは、全体的にクラシック曲よりもポピュラー曲が多く弾かれている点。クラシック曲に比べると、ポピュラー曲はレッスンのような教育的な側面がなくても、独学でも取り組める、という点も背景としてあるのかもしれない。自分自身、ピアノ(というよりピアノ曲)は正規に習っておらず、学生時代に自己流で弾き始めただけに、どこか共感するものがある。
冒頭のNHK番組では初めての国内編として神戸の街(神戸市営地下鉄の西神中央駅の改札ロビー)に置かれたグランドピアノの駅ピアノがオンエアされたが、連弾でピアノを弾くカップルや、父親から影響を受けたというビリー・ジョエルの「ピアノ・マン」を弾く高校生等がいて、海外同様、ほほえましい光景がそこにはあった。

さて、自分にとっても、ストリートピアノで弾くなら最初にまずこの一曲、という大切な楽曲がある。
その曲はコンピュータ・ゲーム・ミュージックの『ソーサリアン』という音楽。「ソーサリアン」とは、1987年に日本ファルコムより発売されたアクションロールプレイングゲーム。1988年頃、中学生時代に友人から借りた「ソーサリアン~スーパー・アレンジ・バージョン」(キングレコード国内盤、画像)というCDアルバムでその音楽に出会ったので、今から30年以上前になる。当時は「ドラゴンクエスト」のようなファミコンのゲーム・ミュージックやパソコンのゲーム・ミュージックが全盛の頃で、自分自身、自宅のNECのパソコンで「イース」に一時期はまっていたこともある。「ソーサリアン」はトライしたことはなかったが、アルバムの冒頭に収録されていた「オープニング」は初めて聴いた時から印象に残った楽曲の一つだった。有り難いことにアルバムジャケットに楽譜が掲載されていたので、当時自宅にあったキーボードで自己流で練習したところ、だんだん弾けるようになり、それ以来、ピアノを弾くときの愛奏レパートリーの一つとなった。

幸いにもYouTube上でアルバム収録曲を聴くことができる。
https://www.youtube.com/watch?v=iMkAXlTw9H0&list=PLzFTGYa_evXgMvURN7tKY33vlXAOEQcmO

弾いていると心が落ち着く曲。クラシック曲に例えるなら、バッハの「平均律クラヴィーア」の「プレリュード」的な存在とでもいうべきか。シンプル且つ透明感のあるメロディながら、弾いている内に、心の平安が保たれるような感じがする。弾く度毎に自分の気分がちょっとずつ演奏にも投影されるのが楽しい。
暗譜で弾けるようになってからは、ピアノ曲を弾く時はまず手始めにこの曲、という感じで30年が過ぎた今も愛奏している。
縁を感じるのはこのアルバムの編曲を担当したのが難波弘之氏(b.1953)であったこと。難波弘之氏といえば、自分の敬愛する山下達郎のバックバンドでキーボードを務める重鎮メンバーだが、当時はそんな接点があることも知らず、一人のミュージシャン(本アルバムでは「SENSE OF WONDER」という彼が結成したプログレッシブ・ロック・バンド名も記載されていた)として知っていただけだった。
当時、制作側の日本ファルコムが一流のミュージシャンに依頼して、ゲーム・ミュージックのアルバムを世に出したのは大変意義があったと思う。本アルバムには他にドラムの村上“ポンタ”秀一氏やつのだ☆ひろ氏、サックスの井上大輔氏の名前もあり、ゲーム・ミュージック界がレベルの高いアルバムを制作していたことに今もって驚かされる。ちなみに、この「オープニング」は難波氏のキーボードと、フュージョン・バンドのカシオペアのベースを担当する鳴瀬喜博氏のベースによるデュオ編成でのアレンジ。これ以外にも「消えた王様の杖(生還)」「エンディングI」といったお気に入りの愛聴曲があり、自分にとってはなくてはならない思い出のアルバムとなっている。

何はともあれ、「ドラゴンクエスト」や「ファイナル・ファンタジー」のようにゲーム・ミュージックがクラシックや吹奏楽、ピアノの世界で映画音楽や他の劇伴と共に愛奏・愛聴されているのは嬉しい限り。街中のストリートピアノでもゲーム・ミュージックを大切な一曲として演奏している人もきっといることだろう。
自分にとってピアノ曲を弾くきっかけを与えてくれた「ソーサリアン」には感謝したい。


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