年末の日本の恒例行事のベートーヴェン「第9」もいいが、聖夜が近づくとやはりヘンデルの「メサイア」が聴きたくなる・・・ここ数年、自分にとっての恒例となった。
ここに3種類のメサイアのジャケットがある。実はいずれもネヴィル・マリナー指揮、アカデミー室内管弦楽団による同一の録音('76年1・7月録音、セント・ジョンズ・スミス・スクエア、ロンドンにて収録、デッカ)。仕様とプレスがそれぞれ違っている。
左より時計回りに①ハイライト(西ドイツプレス)盤、②全曲(国内プレス)盤、③全曲(米国プレス)盤。
当初①ハイライト(西ドイツプレス)盤のみを所有していたのだが、マリナーの演奏の素晴らしさに感動して全曲盤が聴きたくなり、ショップで探した所、②全曲(国内プレス)盤を発見。日本語ライナーノーツも読めて一件落着したのだが、その後輸入盤の全曲盤も存在することを知り、③全曲(米国プレス)盤もついつい購入してしまった。3種類も揃えてしまったのは、山下達郎と同様、ファン心理に近い(^^;各々のジャケット・デザインが違っており、ちょっとしたコレクター気分。
自分にとって、デッカに録音したマリナーの「メサイア」が現在のマイベスト盤。その後マリナーはデジタル録音期に入ってフィリップスにも再録音しているが、'70年代、当時52歳のマリナーがデッカに残した数多くの録音の中で名盤となる一枚だと思う。音楽の中に前に進む推進力が備っている。マリナーのテンポ感に加え、オケと合唱・独唱各陣のバランスも絶妙。デッカの優秀録音がそれをしっかり捉え、アカデミー・ファミリーのクリスタル且つ色彩的なサウンドをより際立たせてくれる。プロデューサー、エンジニアにデッカ録音でお馴染みのクリス・ヘイゼル、サイモン・イードンの名コンビのクレジットがある事もそれを裏付けている。
オケと合唱・独唱三位一体でのハイクオリティな演奏と録音が味わえる事も手伝って、QUADのスピーカーや先日のヘッドフォン購入では、良き比較試聴ピースにもなってくれた。
ここで興味深い事が一つあった。せっかくなので、同曲の中でも好きな楽曲「For unto us a Child is born」をそれぞれ聴き比べてみた。すると、異なるプレス盤による音の違いもQUADスピーカーではっきり聴き取れるのだ。
3種類の中で最もお気に入りなのは③の米国プレス盤。音圧レベルが高めで、ややエッジが効き過ぎているように感じるも、最もクリアな音質で聴き取りやすい。一方、①の西ドイツプレス盤は深みがあって音質的には好みだが、音圧レベルは低め。音量を少し上げないと③には追いつかない。残った②の国内プレス盤は音圧レベルは③とほぼ同様ながら、サウンドがやや混濁する感じがする。結果的には③>①>②の印象だった。今回に限らず、国内プレス盤が個人的に好みではないのは、サウンドの明瞭さにおいて海外プレスに劣るケースをこれまでのディスク鑑賞から感じてきたからだ。今回のように同録音で異なるプレス盤を聴き比べてみる事で改めて実感する事になった。
前回、アカデミー室内管弦楽団&合唱団のクリスマスアルバムの名盤もエントリーしたが、今回も合唱団・歌手に加え、以下のソリストが録音に加わっている。
エリー・アメリンク(ソプラノ)
アンナ・レイノルズ(アルト)
フィリップ・ラングリッジ(テノール)
グィン・ハウエル(バス)
ジョン・ウィルブラハム(トランペット)
ケネス・ヒース(チェロ・コンティヌオ)
ニコラス・クレーマー(ハープシコード)
クリストファー・ホグウッド(チェンバー・オルガン)
オルガンを担当しているのは当時32歳のクリストファー・ホグウッド。彼は'73年にエンシェント室内管弦楽団を創設し、指揮者としても知られるし、トランペットのジョン・ウィルブラハムはBBC交響楽団の首席奏者だけでなく、フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルのメンバーでも活躍していた名奏者だ。
ここで、面白い発見があった。「For unto us a Child is born」②③全曲盤の冒頭、何と小鳥のさえずりが聴こえる!(ちなみに独唱のシーンでも発見)録音会場のセント・ジョンズ・スミス・スクエアはロンドンの中心部、国会議事堂の裏手に位置するが、録音にまで混入しているとは・・・!クラシック録音にはよくあるハプニングだが、エンジニアのサイモン・イードンもおそらくご愛嬌だったのだろう。日中、小鳥がさえずる中での「For unto us a Child is born」の録音、何とも雰囲気があっていいではないか!
気分爽やかに、一日の始まりにぴったりなこの曲はiPodのヘビー・ローテーションの一曲(^^)