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ロンドン交響楽団が関わった映画音楽のサントラといえば「スター・ウォーズ」が真っ先に思い浮かぶが、他にもユニークなサントラが数多くレコーディングされている。今回はその中から隠れ名盤とでもいうべきアルバムをエントリーしたい。
まずはハイチ出身の作曲家、リー・ホールドリッジ(b.1944)のサントラ集(アルバム「CHARLES GERHARDT conducts the film of LEE HOLDRIDGE」ジャケット画像:左)を。作曲家名は知らずとも、一聴して感じるのは、ハリウッド的な大作のスケールを持つシンフォニックなサウンドに仕上がっている点。「スター・ウォーズ」のようなスペクタクルものから、「ニュー・シネマ・パラダイス」のような叙情溢れる作品まで、映画音楽としての醍醐味を兼ね備えている。

録音も優秀で、指揮者でエンジニアでもあるチャールズ・ゲルハルト(1927-1999)と、プロデューサーで、作曲家のエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルドの二男、ジョージ・コルンゴルド(1928-1987)のコンビによって、実に丁寧に作り込まれているのが窺える。実はこの二人、これまでにも多くのサントラアルバムを手掛けており、代表的なものに、彼が創設に関わったナショナル・フィルとの「スター・ウォーズ」組曲(RCA、ジャケット画像:右)がある。1977年の録音時期からすると、ズービン・メータ&ロス・フィル盤の「スター・ウォーズ組曲」とアルバムセールスと分かち合っていた事だろう。本アルバムは、そんな一連のスター・ウォーズ作品のサントラ製作に関わったロンドン響という名門オケを起用しているだけに注目なのだ。

収録曲は以下の通り。

①「ミラクルマスター/七つの大冒険」(THE BEASTMASTER )~「組曲」
②かもめのジョナサン」(JONATHAN LIVINGSTON SEAGULL) ~「弦楽のための音楽」
③「GOIGN HOME」~「旅」
④「スプラッシュ」~「愛のテーマ」
⑤「WIZARDS AND WARRIORS 」~「序曲」
⑥エデンの東」~「組曲」
⑦「THE HEMINGWAY PLAY」~「パリジャン・スケッチ」
⑧「THE GREAT WHALES」~「序奏とテーマ」

チャールズ・ゲルハルト指揮 ロンドン交響楽団(1985年頃録音、Citadel Records海外盤)


スペクタクル性、という点では①の映画「ミラクルマスター/七つの大冒険」~「組曲」(1982年公開)と、③のTV作品「Wizards And Warriors」~「序曲」(日本未公開)、⑧で同じくTV作品「The Great Whales」(日本未公開)が挙げられるだろう。アップテンポなビートとブラスの躍動に、スター・ウォーズ的な壮大なスケールやインディ・ジョーンズのようなアドベンチャー作品との共通点を感じる。スクリーン一杯にトランペットが活躍しているが、本アルバムのトランペット・セクションにはもちろん、モーリス・マーフィーも加わっているに違いない。また、ホルンセクションの咆哮にも圧倒されてしまう。

一方、叙情的な聴き所も満載。⑥の6曲からなる「エデンの東」~「組曲」は本アルバムの白眉といえる作品で、第一曲「メインテーマ」や第五曲「アブラのテーマ」で聴かせるストリングスの美しさは、1955年製作の初代「エデンの東」のテーマ(作曲:レナード・ローゼンマン)をしのぐほど。マックス・スタイナーの「風と共に去りぬ」~「タラのテーマ」のように鳴り響く優美な旋律が印象的で、フィギュアスケートのBGMにもしばしば使用されているのも頷ける。
また、ピアノのソロにストリングスが優しく寄り添う④の映画「スプラッシュ」~「愛のテーマ」(1984年製作)や、⑦の「THE HEMINGWAY PLAY」~「パリジャン・スケッチ」(日本未公開)はその旋律線や楽器の扱いに、どこか「ニュー・シネマ・パラダイス」との共通点も感じさせる。もちろん、これはホールドリッジの作風であり、今回、彼の作品に親しめた事は、一番の収穫だった。

おそらく短いレコーディング期間の中で、驚く程完成度の高い演奏を作り上げるロンドン響の卓越したパワーにはかねがね脱帽してしまう。あらゆるジャンルの音楽に柔軟に対応できるオケとして賛辞を送りたい。