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恐るべきCDが登場した。マーラーのファンであれば必聴ともいうべき音源。何がすごいかといえば、交響曲第5番の大音響絵巻を何と17人のプレーヤーだけで再現してしまったのだ。
編成はまず弦楽器が5名(ヴァイオリン×2、ヴィオラ×1、チェロ×1、コントラバス×1)。管楽器が6名(フルート×1、オーボエ×1、クラリネット×1、ファゴット×1、トランペット×1、ホルン×1)、打楽器その他が6名(ティンパニ×1、パーカッション×2、ハープ、×1、ピアノ×1、ハーモニウム×1)。17名とはいえ、打楽器を除くと実質11名。小編成ゆえ、どうしても薄くなってしまうサウンドの輪郭はピアノでピアノで補われたりはするものの、この作品が持つ核心は大編成オケと同様に見事に再現されており、マーラーが描く宇宙が眼前に広がっていく。まさに驚きだ。

演奏メンバーは、グスタフ・マーラー・ユーゲント管弦楽団出身のメンバーが2013年に創設した、「ナタリア・アンサンブル」という団体。グスタフ・マーラー・ユーゲント管は指揮者のクラウディオ・アバド(1933-2014)が1986年に創設した26歳以下の若手から成るオケだが、そこから巣立ったメンバーだけに、アバドのDNAが受け継がれた新進気鋭の奏者達だ。メンバーの多くが20~30代の若手であることも特筆すべきで、過去の伝統に縛られることなく、伸び伸びと演奏しているのが分かる。

実際、交響曲第5番はトランペットとホルンがソロを取ることが多い曲だけに、このような編成にも適していると思う。また、第4楽章のアダージェットも当音源の聴かせどころで、ここでは弦楽五重奏で奏でられる。オケ編とは異なる良さがあり、味わいがある。小編成というとパワー不足がどうしても否めない感を覚えるが、実際、彼らの演奏からは、作品の本質はそのままに、むしろ小編成ならではの即興性やインティメートな楽しみ方があることをこの音源は教えてくれる。指揮者を置いていない点も作用しており、そういう意味でもこの音源の存在意義があると思う。

演奏者にも特徴がある。マーラー演奏には欠かせないトランペットにはライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団首席のジョナサン・ミュラー(ドイツ出身、27歳)、オーボエはロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のミリアム・パストール(スペイン出身、30歳)が担当しており、世界の名門オケで活躍している団体であることが分かる。また、全体としてパストールをはじめとしてスペイン出身の奏者が多いことも特徴。ちなみにジャケット画像にも彼らが出演しており、この団体が国を飛び越えたメンバーの友情で成り立っていることを窺わせる。

彼らはこれまでも他のオケ作品を室内編成での試みているようで、マーラーに関しては他に交響曲第4番も録音しているようだ。同時代に生きる者として、彼らの更なる活躍に期待したい。You Tubeでも彼らの映像が見れるのでアクセスされたい。

マーラー:交響曲第5番
マーラー:交響曲第4番

【参照マイブログ】 これまでにエントリーした交響曲第5番
■マーラー:交響曲第5番他~新たなる始動!サイモン・ラトルのベルリン・フィル芸術監督就任記念公演DVD
■「のだめカンタービレ」陰の立役者~ジェームス・デプリーストのマーラー交響曲第5番~