「山下達郎」つながりで、今宵は竹内まりやの曲を。エントリーするのは、彼女の代表作「元気を出して」。“涙など見せない 強気なあなたを そんなに悲しませた人は 誰なの?・・・・”ではじまるこの曲は、1984年にまりやが薬師丸ひろ子へ提供し、本人自身も1987年のアルバム「リクエスト」でセルフ・カヴァーした曲、くらいの予備知識しか当初はなかった。実際にこの曲が生まれた背景は、アメリカのシンガーソングライター、カーリー・サイモン(b.1945)が夫のジェームス・テイラー(b.1948)と1983年の離婚直後に発表したアルバム「トーチ」を竹内まりやが聴いて、サイモンを励ますために作った曲だという。
曲名は「元気を出して」だが、エントリーするのは本人オリジナルの曲ではない。偶然にも昨夏から昨冬にかけて彼女の曲をカヴァーしているアルバムに2枚出会った。それぞれクラシックとフュージョンという異なった世界にいる有名アーティスト達がカヴァーした「元気を出して」。果たしてどんなサウンドが生まれるのか・・・一番楽しみにして聴いたのは竹内まりや本人かもしれない(^^)
[クラシック~ヴァイオリン・ソロ版「元気を出して」]
○マキシム・ヴェンゲーロフ(Vn) イタマール・ゴラン(ピアノ)
(1996年3月録音、ロンドンにて収録、テルデック国内盤)
アルバム『ザ・ヴィルトゥオーゾ』の中の一曲。ヴィルトゥオーゾ・ヴァイオリニストとしての名声を築き上げていたロシア出身の若手ヴァイオリニスト、マキシム・ヴェンゲーロフ(b.1974)が日本向けの国内盤のみにボーナストラックとして収録した実にレアな録音。他の曲(クライスラーやパガニーニ等、超絶技巧を要するヴァイオリンの名曲を収録)は当時19歳だった1993年時に既に録音されていたが、1996年6月に国内盤の発売にあたり、プロモーションの意図もあったのだろう、販売元のワーナー・ミュージック・ジャパン側のリクエストによって実現したもの。
ヴィルトゥオーゾ・ヴァイオリニストが演奏するJ-POP、しかも竹内まりやの代表作とあって、どんな風に演奏されるのだろう・・・興味津々で聴いたものだが、結果は期待以上のものだった。
それは単に編曲譜をなぞっただけの単なるファンサービスのパフォーマンスではない、実に真摯で熱い演奏。その彼自身、原曲を聴き込み、詞の意味を解した上でこの曲に臨んだと思われるほど。竹内まりやがこの曲に込めた思いを、ヴェンゲーロフ自身の熱いパッションとロシア流のテイストを織り交ぜながら見事に表現している。
実は偶然にも、1997年にロンドンの語学ホームステイに行った際、ロイヤル・アルバート・ホールでのプロムスで、ヴェンゲーロフの実演に接していた。サイモン・ラトル&バーミンガム市交響楽団の公演で彼はショスタコーヴィッチのヴァイオリン協奏曲を演奏。聴衆からの熱い拍手に無伴奏でアンコールに一曲応えていたのを記憶している。その模様は当時のブログに詳しい。この「元気を出して」はちょうどその前年の録音となるわけだ。
ちなみに彼の師匠はザハール・ブロン氏。世界に名立たるヴァイオリニストを輩出した名教師でもあり、最近は昨年の第13回チャイコフスキー国際国際コンクールのヴァイオリン部門で優勝した神尾真由子氏のニュースが記憶に新しい。そのザハール・ブロン氏の師匠はイーゴリ・オイストラフで、ロシア・ヴァイオリン界のヴィルトゥオーゾの源流はイーゴリの父、ダヴィド・オイストラフになるのかもしれない。
ヴェンゲーロフは日本にも度々来日をしているようだ。自分と同年代のヴァイオリニストとしても応援したい。
[フュージョン~ギター・デュオ版「元気を出して」]
○あんみつ
(2007年4月録音、ヴィレッジ・スタジオにて収録、ヴィレッジ・ミュージック国内盤)
キリンビールのCM曲への起用で一躍有名になった「日曜はダメよ」がタイトルとなったアルバム『日曜はダメよ』に収録。“あんみつ”というアーティスト名は、日本のフュージョン界を代表するバンド、Tスクエアのリーダーであるギタリストの安藤まさひろ氏と、TスクエアがTHEスクエアとして活動していた発足初期のメンバーだったギタリスト、みくりや裕二氏が組んだギター・デュオ名。活動歴30年を超えるTスクエアの、名ギタリスト同士の共演というわけだ。ここでは、ライナーノーツに掲載されている安藤氏の言葉を引用してみたい。
“原曲のアコギのイントロを聞いた瞬間、これは僕達にぴったりの曲だと思いました。きっと誰もが知っているこのメロディーを、あんみつの演奏で聞いて「元気」が出たら素晴らしいと思って。ライブで演奏したら一緒に歌ってもらってもぜんぜんいいんです(笑)。”
コメント通り、原曲の雰囲気を損なわない素晴らしいギター・インストルメンタルに仕上がっている。2本のギターだけで紡ぎ出すアコースティックな世界がまた魅力的だ。2本のギター・インストデュオといえば、以前神戸の若手ギター・デュオ、DEPAPEPE(デパぺぺ)のフレッシュなアルバムをエントリーしていたのを思い出したが、このアルバムは同時期に購入したものだった。ドラムもキーボードも入らないアコースティック・ギターだけのサウンドは、深夜に聴くにもぴったりで、一日の疲れを癒してくれるよう。ヴァイオリンと同じ弦楽器に属するアコースティック楽器ならではの魅力なのだろう。
ヴェンゲーロフのヴァイオリンも、あんみつのギターもQUADスピーカーで実に心地よい音で鳴ってくれた。アコースティック・サウンドで聴くJ-POPもいいものだ(^^)