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猛暑が続く。今週は出張先で日差しが照りつける中をかなりの時間歩いた事もあって、少し日焼けもしたようだ。暑さ対策として前回に引き続き、今回も納涼気分になれる音楽を。
聖歌隊の音楽は、最近通勤中にi-Podでもよく聴いており、納涼にも相性がいい。例えば、クリスマス・キャロルを敢えて真夏に聴いてみる。真夏に聴く「聖しこの夜」等、なかなかのもの(^^) 頭の中に冬の情景が描けるという事だけでなく、名曲の宝庫だけに癒される曲が多い。四季折々に愛聴されていい曲が聖歌隊の音楽の中にはある。
今回は英国の3つの名門聖歌隊による演奏で、癒しのサウンドに浸ってみたい。
(ジャケット画像:左上より時計まわり)

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~聖歌隊による英国王室の音楽~

○マーティン・ニアリー指揮 ウェストミンスター・アベイ聖歌隊
 ロンドン・ブラス
 ('88年3月録音、ウェストミンスター・アベイにて収録、IMP輸入盤)


王室行事で使用される音楽が中心となったアルバム。ウィリアム・ウォルトンや、ヴォーン=ウィリアムズなど、英国を代表する作曲家達の声楽曲が収録されている。イギリス国教会の中心的建造物である、ウェストミンスター・アベイ(ウェストミンスター寺院)での聖歌隊による演奏だけに実に壮麗な仕上がり。ここでは曲によってロンドン・ブラスの演奏が加わっている事も大きなポイント。'88年といえば、フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルの解散('87年)直後で、ロンドン・ブラスと改称して、新たな第一歩を踏み出した年でもあり、フィリップ・ジョーンズの伝統を受け継いだ新生ブラスとしての演奏が聴けるもの嬉しい。王室音楽監督としても活躍したアーサー・ブリス(1891-1975)作曲のファンファーレも2曲収録されており、1曲目に収録されているオープニングファンファーレ的な位置付けの「ロイヤル・ファンファーレ」や中間で収録されている「ウェディング・ファンファーレ」では大聖堂の空間いっぱいに響き渡るブラスサウンドが実に美しい。
パイプ・オルガン独奏によるヴィドールの「トッカータ」で締めくくるという選曲プログラムもまた良い。

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~聖歌隊による英国フォーク・ソング集~

○エドワード・ヒギンボトム指揮
 オックスフォード・ニュー・カレッジ合唱団
 ('97年4月&7月録音、オックスフォード・ニュー・カレッジにて収録、エラート国内盤)


「フォーク・ソング」=「民謡」に恵まれた英国の聖歌隊らしいアルバムで、「ダニー・ボーイ」や「サリー・ガーデンズ」、「ロッホ・ローモンド」などの名曲が収録されている。
かつてキングズ・シンガーズの演奏で親しんできたが、聖歌隊による歌声は、聴きなじんだ曲をまた新鮮な形で蘇らせてくれる。
例えば、アイルランド民謡の「サリー・ガーデンズ」。自分にとっては元々キングズシンガーズの演奏をきっかけに好きになった曲だが(最近はテレビCMのBGMでも使用されたりしていた)、少年聖歌隊員の澄み切った歌声で歌われる旋律も、曲の情感が伝わってきてまたよい。
ダニー・ボーイ」は通常歌詞付きで歌われるが、ここでは母音のみのヴォカリーズで歌われる。ライナー・ノーツには21名の少年聖歌隊員と、12名の成人聖歌隊員のメンバー表が記載されており、計33名によって生み出される純粋な聖歌隊サウンドを味わえる。
意外な発見だったのは、「Waly、waly」という曲。この旋律、どこかで聴いたことがある曲だな、と思っていたら「The water is wide」の起源となったアイルランド民謡で、以前、クリスチャン・ジェイコブの演奏でよく聴いていた
オックスフォードは'97年に訪れた懐かしの街でもある。このアルバムの録音も'97年。意外な共通点だった(^^)

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~聖歌隊によるクリスマス・キャロル集~

○デイヴィッド・ヒル指揮
 ウェストミンスター大聖堂聖歌隊、アレキサンドラ聖歌隊、カントルム聖歌隊
 ロイヤル・ミリタリー・スクール・オブ・ミュージックのファンファーレ・トランペット奏者
 ニコラス・コール(ティンパニ)
 ジェイムズ・オドネル(オルガン)
 ('85年収録、ウェストミンスター大聖堂にて収録、IMP輸入盤)

 
このディスクを聴いて以来、既に多く所有していた聖歌隊によるクリスマス・キャロルアルバムの中でもマイベストな一枚となった。演奏は以前、フォーレの「レクイエム」でエントリーしたデイヴィッド・ヒル(b.1957)&ウェストミンスター大聖堂聖歌隊を中心に、3つの聖歌隊と合同での特別編成となっている。
収録曲はいずれも素晴らしいが、特に「聖しこの夜」と「Ding Dong! Merriy On High」は絶品! 「聖しこの夜」はまずアレンジが素晴らしい。聖歌隊の歌声に、パイプオルガンの伴奏が加わったシンプルなスタイルだが、そのハーモニーは、通常聴きなれているコード進行とは少し違っており、和声の広がりを感じさせる独自のアレンジが施されている。聖歌隊のハーモニーをそっと包み込むようなパイプオルガンの伴奏も心に響いてくる。
一方の「Ding Dong! Merriy On High(邦訳:ディン・ドン!鐘が鳴る)」の軽やかで柔軟なテンポ感も素晴らしい。この曲はもともと16世紀のフランス舞曲の旋律に、アイルランド人作曲家のチャールズ・ウッドが和声付けしたキャロルだという。ここではまさにそんな舞曲を思わせる活き活きさが漲った演奏。
日本ではケンブリッジ・キングズカレッジ聖歌隊が初来日の際に、各公演のアンコール曲として歌ったことから、国内でポピュラーになった曲だという。
合同ながら、音質やハーモニーが乱れることなく、一つのカラーに見事にまとめていたデイヴィッド・ヒルの統率力(録音当時はまだ20代!)もさすがだ。