それは実に癒されるアルバムだった。きっかけはSNS。何気なく眺めていたところ、そのアルバムが気になり、すぐにネット注文。届いたCDは「Inscape(インスケイプ)」(2018年作品、SECRET CITY RECORDS)というアルバム。タイトルの「Inscape(インスケイプ)」とは「心象風景」の意。紙ジャケットのイラスト(画像上:表面、画像下:中面)にも描かれているように、「in(中)」+「scape(風景)」という、人の心の中の風景を表したような、もしくは、人の心に耳を澄ましているような、印象的な音楽だった。そこで鳴っているのはアコースティック・ピアノの音。しかし、大きなホールで聴かれるようなピアノの響きはない。制作的な意図もあるのだろうか、音色には丸みがあり、グランドピアノというよりは、アップライトピアノ的な響きがする。
ピアノ・作曲は、アレクサンドラ・ストレリスキ(b.1985)というカナダ・モントリオール出身の女性ピアニスト。本アルバムは彼女にとってのセカンド・アルバム。2013年のアメリカのドラマ映画「ダラス・バイヤーズクラブ」の音楽を担当したことで、注目されているピアニストという。
本作は、どこかノスタルジーな味わいがあり、幼い頃の記憶が戻ってくるような、そんな懐かしさがある。映像と音楽がシンクロするように感じるあたり、映画音楽でも今後の活躍が期待される。
紡ぎだされるサウンドを聴いていると、どこかほっとさせられる。音が同心円状に広がる感じや、弦楽器的な響き(おそらくピアノの特殊奏法だろう)も取り入れられており、ピアノという楽器から生み出される音の多様性に驚かされる。例えば6曲目の「Blind Vision」は、もはやピアノの音といよりは心拍音のような響きだ。全体を通じて、旋律はメロディアスでどこか親しみやすさがあり、以前観た映画「ラ・ラ・ランド」で流れていたジャスティン・ハーウィッツ(b.1985)作曲の「ミア &セバスチャンのテーマ」と雰囲気が似ている曲もあった。偶然にもアレクサンドラ・ストレリス(b.1985)と同年代というのも興味深い。ポスト・クラシカルの世界では数少ない女性アーティストだという。
なお、本アルバムには特典として、バッハ編の協奏曲 ニ短調(マルチェロのオーボエ協奏曲による)BWV974 第2楽章 アダージョがダウンロード曲(YouTubeにもあがっていた) として用意されている。これがまた彼女の作風と合っていて良かった。
早朝や深夜のような静けさを感じる時間帯、また一人でいるとき等に、イヤホンやスピーカーを通じてそっと小音量で聴くのもよい。日々の喧騒から離れ、疲れをリセットできるような、そんな癒しにも満ちている。自分の世界に浸れる、最良のお供になりそうだ。最後に本アルバムの収録曲を記しておきたい。
「Inscape」(インスケイプ)
1. Plus tôt (YouTubeオフィシャルビデオ)
2. The Quiet Voice
3. Par la fenêtre de Théo
4. Ellipse
5. Changing Winds (YouTubeオフィシャルビデオ)
6. Interlude
7. Blind Vision
8. Burnout Fugue
9. Overturn
10.Revient le jour
11.Le Nouveau Départ
ピアノ:アレクサンドラ・ストレリス
(2018年作品、Pascal Shefteshy at Studio、SECRET CITY RECORDS)