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先日、「ららら♪クラシック」でアンドレ・プレヴィン&N響によるモーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」が放映された。プレヴィンも御年83歳、椅子に座っての指揮に往年の面影はないが、少ない身振りの中で無駄のない的確な指示を送っていた。
番組内で印象的だったのは、第2ヴァイオリンの首席奏者、永峰高志氏によるコメント。第2楽章における第2ヴァイオリンの役割についてライヴでの実例を元に語っていたのだが、プレヴィンの料理法がいかに一流であるかを教えてくれた。プレヴィンのあまたあるレコーディングの中に、モーツァルトの交響曲録音がないのが残念だが、1990年代後半にN響と共演したライヴ録音が今後リリースされる予定はあるようだ。
そんなプレヴィンのライヴをきっかけに、改めて所有する「ジュピター」のディスクを一枚ずつ聴き比べをし、「ジュピター」の世界に浸ってみたい。まずはウィーン・フィルによる6枚のディスクを録音順に聴き比べしてみた。(ジャケット画像:左上より時計回り)

■カール・シューリヒト指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 (1960年8月14日録音、ザルツブルクにて収録、EMI国内盤)


豪快且つマッシブなジュピター。この演奏を聴いて、まさか80歳を迎えようとする指揮者が振っているとは思えないだろう。ライヴという事もあるのだろうが、彼の十八番のブルックナーもそうだが、シューリヒトは音楽の流れに“ため”を作らず、ひたすらストレートに突き進んでいくタイプの指揮者だ。モノラル録音だが、鑑賞には耐えうる音源。

■ラファエル・クーベリック指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 (1961年録音、EMI国内盤)


ウィーン・フィルとのセッション録音によるもの。当時クーベリックは40代半ば。この年、バイエルン放送交響楽団の首席指揮者に就任しており、彼にとっては転換期にもあたる。推進力に富んだジュピターで、聴いていて心地よい。4種の音源が存在するクーべリックのジュピターの中では上位に入る一枚。録音はさすがに古さを感じさせるが、演奏には現在でも新鮮味がある。

■オットー・クレンペラー指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 (1968年5月19日録音、ムジークフェライン、ウィーンにて収録、TESTAMENT海外盤)


1968年のウィーン芸術週間における貴重なライヴ録音。骨太で重量感のあるジュピター。いわゆる巨匠風的演奏で、同じ巨匠でもシューリヒト盤とは対照的。第4楽章で聴けるホルンの豪快な鳴らしっぷりも良い。録音はややオンマイク気味だが鮮明に聴ける。

■ラファエル・クーベリック指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 
 (1971年8月13日録音、ザルツブルク祝祭大劇場にて収録、オルフェオ海外盤)


こちらはザルツブルグでの貴重なライヴ録音。1961年のセッション録音からちょうど10年後にあたる年でもある。1楽章冒頭の連打は、一音一音に重みが加わり、EMI盤に比べ、第1楽章だけで1分近く長くなった。しかしながら全体的な印象はEMI盤同様、威勢の良いジュピターで、ウィーン・フィルもクーベリックのタクトに反応している様子が窺える。録音がやや固めで、ストリングスがやや痩せて聴こえるのが残念。

カール・ベーム指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 (1976年4月録音、ムジークフェライン、ウィーンにて収録、グラモフォン海外盤)


マイベスト盤の一つ。中でも前半の2つの楽章は好演。特に第2楽章は、N響団員のコメントをそのまま体現したような演奏が展開されている。対旋律のスパイスが効かせたベームならではの妙技といえるだろう。録音もアナログ最盛期で優秀。ベーム晩年の名盤の一つ。

■レナード・バーンスタイン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 (1984年1月録音、ムジークフェライン、ウィーンにて収録、グラモフォン海外盤)


マイベスト盤の一つ。バーンスタインとウィーン・フィルの良好関係ぶりを窺わせる演奏。ライヴながらバーンスタインならではの主張は感じさせず、バーンスタインがウィーン・フィルという楽器に身を任せながら、彼がモーツァルトの引力に導かれるがままタクトを振る姿が想像できる。白眉は終楽章。以前も本ブログにエントリーしているが、演奏自体は力まずとも、徐々に熱を帯びながら、繰り返しも含め、クライマックスに向けて自然な高揚感が築かれている。今回エントリーしたディスクの中でも随一の名演といえるだろう。