今週は多忙な一週間だった。この二日間は、深夜まで残業が続く・・・。そんな日には疲れが癒される曲を聴きたい。そんなタイミングにサミュエル・バーバーの名曲、「弦楽のためのアダージョ」を。
サミュエル・バーバーは実は、ゲイリー・バートンとの接点があった。ジャズからのいきなりクラシックの作曲家に飛躍に?と思うのだが、前回エントリーしたCDのライナーノーツを改めて読み返してみてびっくりした。
1968~69年、当時25歳のバートンと58歳のバーバーとの間に、ジャズとクラシックのコラボレーションの企画が進められていたという。何でもバーバーがジャズの世界に興味を示したらしい。
その後、バーバーはバートンに教えを請い、飲み込みも早かったたそうだが、結局マスターできず、企画も断念したそうな。
しかし、バートンのどこかで影響を与えていたのだろう。前回のアルバム「VIRTUOSI」にもサミュエル・バーバーに捧げる思い出として彼のジャズへの前衛性が感じられる『遠足』より第一曲 op20』という小品が収録されている。
そんな意外な(?)親交にも思いを馳せて、「弦楽のためのアダージョ」を改めて聴く。原曲はバーバーが1936年に留学先のローマで作曲した「弦楽四重奏曲第一番」の2楽章。その2楽章が後年、彼自身の手によって弦楽合奏版と合唱版に編曲されている。
まず、弦楽合奏版をネーメ・ヤルヴィ指揮のデトロイト交響楽団の演奏で('93年1月録音、シンフォニーホール、デトロイトにて収録、シャンドス輸入盤)。
深夜に聴くと元々この曲が持っているシリアス度が一層増してくる(^^; しかし、ストリングスの響きを堪能するには格別な曲。曲が進むに連れて、音域が徐々に上昇していき、ついにはストリングスの叫びともいえる音域に。これはバーバーの魂の叫びなのか?そんな思いに駆られてしまう。アンタル・ドラティの音を受け継いだヤルヴィ&デトロイト響の響きも素晴らしい。
一方合唱版をデイヴィッド・ヒル指揮のウィンチェスター大聖堂聖歌隊の演奏で('88年1月19~23日録音、ウィンチェスター大聖堂にて収録、ヴァージン輸入盤)。合唱版は「アニュス・デイ」という曲名。ストリングスに代わり、ボーイ・ソプラノがここでは主役だ。さすがに最高音域に達するクライマックスでは、音程を維持するのがツラそう。しかし、約8分もの間、ロングトーンが続きっぱなしのこの曲は、相当な訓練が出来ていなければ歌えない曲のはずだ。
この曲のシリアスさは、どことなく、バロック曲ではアルビノーニの名曲「アダージョ」と通じるものがあるように思うし、現代曲ではボストン・ポップスの指揮者を引退後、シリアス度が増した映画音楽界の巨匠、ジョン・ウィリアムズの作品にも通じるものがある。オリバー・ストーン監督の映画「7月4日に生まれて」のシリアスなサントラはジョン・ウィリアムズの作曲だった。そういえば、この曲が使用された映画「プラトーン」の監督もオリバー・ストーンだ。これは偶然だろうか?
また余談としては、バーバーの追悼でレナード・バーンスタインがニューヨーク・フィルの定期で演奏したのがこの曲だったという。
弦楽合奏版と合唱版。いずれも素晴らしいバーバーの名曲。魂が浄化される感じだ。今日の疲れは見事に癒された。