ピアノ協奏曲の定番、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番をロシア出身のアレクセイ・スルタノフのピアノ、マキシム・ショスタコーヴィチ指揮ロンドン交響楽団の演奏(1989年11年録音、ザ・モールティングズ、オールドバラにて収録、TELDEC輸入盤)で。
ピアニストのスルタノフは1989年当時、アメリカのヴァン・クライバーン・コンクールで優勝したばかり。当時20歳ながら、人生の絶頂期の頃の録音。さすがロシアのピアニストというべきか、同郷の2大作曲家のピアコンがよく似合う。
ヴァン・クライバーン・コンクールで優勝を勝ち得る前の1986年にチャイコフスキー・コンクールに若干17歳で初出場している。おそらくスルタノフにとっては十八番のチャイコフスキーであろう、自信のみなぎったエネルギッシュさが感じられる。
一方、ラフマニノフはチャイコフスキーとは一転、20歳とは思えない成熟した音楽性と叙情性が垣間見える。指揮者のマキシムは言わずと知れたドミトリー・ショスタコーヴィチの長男。そのマキシムとロンドン交響楽団のバック・サポートとの相性も素晴らしい。特にラフマニノフのホルンパートの豪快な鳴りっぷりは聴いていて気持いい。
ザ・モールティングズといえばベンジャミン・ブリテンがイギリス室内管弦楽団を率いて1970年代にデッカとたくさんの名盤を残した場所だ。その意味での感慨深さもある。
ヴァン・クライバーン・コンクールの肩書きだけでは飽き足らなかったのだろうか、その後も1995年のショパン・コンクールに出場、最高位(1位なしの2位)の栄冠を勝ち取る。ここでコンクール歴も終わりかと思いきや、またまた1998年のチャイコフスキー・コンクールにも出場。ここでは2次予選落ちという結果に終わる。彼はコンクールの覇者を目指す事に命を懸けていたのだろうか。
そんな彼を悲劇が襲う。2001年、脳溢血で全身麻痺となり、ピアニストとしての人生を絶たれる事になってしまった。療養生活を続けるも2005年に亡くなっている。
何が彼の人生を行き急がせたのか。このアルバムを聴きながらそう思った。このアルバムは彼の人生を語る上での貴重なドキュメントになるだろう。
折りしもちょうど5年ぶりに開催されるチャイコフスキー・コンクールの真只中。今回はどんなドラマが繰り広げられるのだろうか。