今宵は久しぶりにピアノ曲を。大好きなシューマンの「交響的練習曲」が収録されていたので、購入したディスク('98年12月15~20日録音、モスクワ放送局第3スタジオにて収録、サクランボウ国内盤)。
演奏はデニス・マツーエフ。'98年の第11回チャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で優勝した年の録音で、アルバムからはコンクール時のライブパフォーマンスを彷彿とさせる勢いにのった熱演を感じ取る事ができる。収録曲は以下の通り。
①メフィスト・ワルツ第1番 S.514(リスト)
②交響的練習曲 作品13(シューマン)
③ピアノ・ソナタ第14番 イ短調D.784 作品143(シューベルト)
①のリストはマツエフのショー・ピースともいうべき演奏。抜群のタッチコントロールと豪快でダイナミックなサウンドに1曲目から圧倒させられてしまう。これぞ爆演というべきか(^^)
②の「交響的練習曲」は、以前、ブログで取り上げた鈴木弘尚氏の演奏とはまた対照的な内容だ。彼の演奏はどちらかというと内省的で、ストイックな程にひたむきさを感じる演奏だったのに対し、マツーエフの演奏は実に豪快。これぞ、ロシアン・ピアニズム、とでもいうのだろうか。終曲ではピアノの弦が切れるのかと思う程、強靭なタッチのサウンドが轟く。どちらがいい悪いの問題ではなく、アーティストの個性の違い、作曲家に向けたアプローチの違いというものだろう。彼の勢いある演奏には、若くして急逝したピアニスト、アレクセイ・スルタノフと似ているものも感じる。
③のシューベルトでもマツーエフのテンションの高さは相変わらずだが、ここでは少し沈静さも求めたかった。コンクール優勝いう名誉と当時まだ23歳という若さでは難しかったのかもしれない。それだけに、この約10年間の彼の成長ぶりが楽しみでもある。
'00年だっただろうか、一度、マツーエフの演奏を九州駐在時に生で聴いた事があるが、広い会場内でも彼の音が遠くまで響き渡り、眠気も取れる程のダイナミックな演奏だったのを思い出す。
彼の演奏を聴くと、ピアノ=繊細な楽器、ではなく、オケと同様、シンフォニックなサウンドを放つ楽器に変貌してしまうから不思議だ。
なお、録音ではピアノはヤマハのCFⅢSで収録。コンクール使用時と同じものだろうか、とにかくよく鳴っている。先日の鈴木弘尚氏のアルバムはスタインウェイでの録音だったから、演奏と共に、ピアノを個性の違いを味わう楽しみもある。
同じロシア出身で第9回チャイコフスキー国際コンクールピアノ部門の優勝者である、ボリス・ベレゾフスキーは今や「熱狂の日」(ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン)でもお馴染みだ。マツーエフは近頃指揮者ユーリ・テミルカーノフと組んでチャイコフスキーのピアノ協奏曲をレコーディングしているが、またコンサートシーンでも新たなレパートリーと共に来日を期待したいものだ。