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昨年末に、クラシックの楽しさを満喫させてくれたコンサート「世界まるごとクラシック」の第2弾となる「フィギュア名曲コンサート~スケート・ファンタジー IN SUMMER 2009」を聴きに行く。
フィギュアの選手達が使用した名曲を中心に並べたプログラミングで、今回も企画勝ちといえる内容だった。実際、フィギュアがきっかけで大衆性を持つようになったクラシック曲は多い。例えば、フィギュアの女王、荒川静香選手が2006年のトリノでの冬季五輪で金メダルを受賞した際の使用曲は、プッチーニの歌劇「トゥーランドット」より“誰も寝てはならぬ”だったし、最近では、浅田真央選手が使用しているハチャトゥリアンの組曲「仮面舞踏会」~“ワルツ”も、以前、ビールのCMで使われて以来、こぞって取り上げられている人気曲(本ブログでもエントリー)となっている。真夏にフィギュア、という発想も面白い。

前回同様、指揮・お話・構成を、今やテレビでもお馴染みの青島広志氏が担当。管弦楽は、通常はバレエを中心として活動している「シアター・オーケストラ・トーキョー」を起用している点や、人気ピアニストの清塚信也氏をはじめとするピアノから独唱まで、4人の若手ソリストに加え、スペシャルゲストに、フィギュア・クラシックブームの火付け役ともなった荒川静香氏が登場するなど、ユニーク且つ豪華なゲストが登場するのが嬉しい。今回も青島節ともいえるトークは顕在だった。当日の演奏曲は以下の通り。

(第一部)
①チャイコフスキー:白鳥の湖~情景
②ボルヌ:カルメン幻想曲(短縮版)
③モンティ:チャルダッシュ(フルート版)
④ショパン:幻想即興曲
⑤ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番~第1楽章
⑥ワルトトイフェル:スケーターズワルツ
⑦ラフマニノフ(ストコフスキー編曲):前奏曲「鐘」(オケ版)
⑧ハチャトゥリアン:組曲「仮面舞踏会」~ワルツ
⑨ハチャトゥリアン:組曲「仮面舞踏会」~ワルツ(フルート版)

(第二部)
⑩ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー
⑪プッチーニ(青島広志編曲):歌劇「トゥーランドット」より“誰も寝てはならぬ”(ヴァイオリン版)
⑫プッチーニ:歌劇「トゥーランドット」より“誰も寝てはならぬ”
⑬プッチーニ:歌劇「蝶々夫人」より“ある晴れた日に”
⑭チャイコフスキー:「くるみ割り人形」より“こんぺい糖の精の踊り”
⑮チャイコフスキー:「くるみ割り人形」より“花のワルツ”

スペシャル・ゲスト:荒川静香
ピアノ:清塚信也 ④⑤⑩
フルート:新村理々愛 ②③⑨
テノール:小野 勉 ⑫
ソプラノ:香川美智子 ⑬


青島広志指揮 シアター・オーケストラ・トーキョー


今宵最大の聴き所は3つあった。

■聴き所その①:浅田真央選手の使用曲を公開ライヴレコーディング!

プログラム⑦~⑨において、来年の冬季オリンピック開催地となるバンクーバー五輪で、浅田真央選手がショートとフリー・プログラムで使用する曲を、3曲立て続けに公開ライヴ・レコーディングするというコーナーがあった。本番での浅田選手の動きに合わせるべく、青島氏はストップウォッチを持っての指揮。その様子は、まるで映画のサントラ収録のようで、演奏者と聴衆がいい意味での緊張感を共有する一時となった。特に⑦のストコフスキー編曲版や⑨のフルート版(ソロの新村理々愛さんはまだ14歳!)は、通常のコンサートでは中々接する機会がない編曲だけに貴重だ。

■聴き所その②:金メダルの女王、荒川静香さんがゲストで登場!

2部が始まると、いよいよスペシャル・ゲストの荒川静香さんが登場。“誰も寝てはならぬ”を、青島氏が編曲したヴァイオリン版(ソロはコンサート・マスター)と、原曲のテノール版を交互に演奏した。荒川氏自身、フィギュア・スケートは「競技であり、芸術でもある」というインタビューでのコメントが印象に残った。

■聴き所その③:荒川静香さんが指揮に挑戦!そしてアンコールは・・・!

⑭では荒川さん自身、マイクをタクトを持ち替え、“こんぺい糖の精の踊り”で指揮を披露。青島氏はチェレスタを演奏という器用さを発揮。フィギュア界とクラシックは密な関係なのだろう、アマチュアとは思えぬ指揮パフォーマンスとリズム感覚はさすが金メダルの女王だ。
ここで荒川さんの指揮は終わりかと思いきや、アンコール曲で、あの歌劇「トゥーランドット」より“誰も寝てはならぬ”を指揮してくれた!今回の4人のソリストの面々も登場し、それぞれにソロを織り込んだ青島氏による特別編曲版。編曲、指揮、MCを全て一人でこなすという、青島氏のマルチぶりが今回も存分に発揮されたコンサートだった。

客層は、フィギュアがきっかけでコンサートを聴きにきたと思しき若い客層が多い。東京国際フォーラムは今や毎年恒例となった「熱狂の日(ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン)」で、クラシックイベントとしてのイメージが定着した感がある。「熱狂の日」と同様、テーマ性を持たせる事で、新たな聴衆を開拓できる事を実証できたコンサートでもあった。