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○ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮バイエルン国立歌劇場管弦楽団
('80年11月23日録音、ヘラクレスザール、ミュンヘンにて収録、
 オルフェオ輸入盤)


聴く度に熟練の技を感じる職人技の「マイスタージンガー」だ。
冒頭から力む事なく、全体に早めのテンポでさらさらと進んでいく。9分15秒という演奏時間はクーベリック盤より更に早い!劇的とか、情で印象づけるタイプの「マイスタージンガー」ではない。一聴するとクールな印象も受けるが、バイエルン国立歌劇場管のメンバーにとっては幾度となくワーグナー・オペラを上演しているだけに、自分達だからこそ表現できるワーグナー、という誇りや自信といったものも感じ取る事ができる。ティンパニの強打で締めくくるコーダはその好例といっていいだろう。歌劇場オケならでは味わいを感じる演奏だ。
当時サヴァリッシュは57歳で指揮者として第一線の頃の録音。フィラデルフィア管を率いて福岡公演で初めて拝見した時の指揮姿が懐かしい。バイエルン国立歌劇場管とは'71年から'92年まで音楽監督として約20年に渡って就任していただけに、オケからの信頼も厚かったように思う。オルフェオと残した代表的な録音としてはブルックナーの交響曲録音(全集としては未完に終わっているようだが…)がまず思い浮かぶが、このディクスには同曲を含め、有名な管弦楽曲(有名序曲集)が5曲収録されている。ちなみにEMIにも2枚の有名管弦楽作品のディスクを残しており、レーベルをまたがり、歌劇場オケとしては珍しいディスコグラフィーだ。レーベル側の事情だったのか?それともオケ側の台所事情的な要因があったのだろうか?

○エド・デ・ワールト指揮シドニー交響楽団
 ('97年3月17~21日録音、シドニー・オペラ・ハウスにて収録、
  ABCクラシックス輸入盤)


オランダ出身の名指揮者、エド・デ・ワールトが'92年から'04年まで首席指揮者及び芸術顧問を務めたシドニー交響楽団による貴重なディスク。
ワールトはマルチな能力を持った指揮者というイメージ。ヨーロッパ・米国・オーストリアと、世界を股にかけてオケを指揮し、オケだけでなくブラス・アンサンブルとも共演する多才ぶりを発揮している。ワーグナー作品は本人にとってもお気に入りなのか、意外と録音も存在し、自分も現在3枚を所有している。このシドニー交響楽団との「マイスタージンガー」はコンサートのオープニングピース的にすっきりとまとめあげた印象。今回取り上げたディスクの中でも平均レベル以上の実力を引き出しているように思う。
ワールトのワーグナーはアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団との名盤もあるので、またの機会に譲りたい。

英語圏のオケの中で英国や米国のオケに比べるとオーストラリアのオケはあまり注目されないが、故岩城宏之氏がかつてタクトを振っていたメルボルン交響楽団とシドニー交響楽団は実力派として知られるオケだ。
とりわけシドニー交響楽団はシドニー名物、シドニー・オペラ・ハウスを本拠地としているだけあって、オーストラリアを代表するオケといえる。このワーグナーが収められたディスクとサー・チャールズ・マッケラス指揮によるベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」は今もって愛聴盤となっている。