今度は英国オケ編を。ロンドンの5大オケによる交響曲録音は意外にも少ない(特にデジタル録音以降)ようだ。個人的には、英国オケの中でもロンドン響と関係の深かったアンドレ・プレヴィンやサー・コリン・デイヴィスによる交響曲のレコーディングが実現していないのは残念だが、カール・ベーム&ロンドン響の交響曲28番と35番「ハフナー」のライヴ音源がANDANTEレーベルに残されているのは救われる。今回、そのロンドン響を含め、ロンドン・フィル、フィルハーモニア管の3種の音源で録音順に改めて聴き比べをしてみた。(ジャケット画像:左上より右回り)
■クラウディオ・アバド指揮 ロンドン交響楽団
(1979年10月録音、セント・ジョーンズ・スミス・スクエア、ロンドンにて収録、グラモフォン海外盤)
アバド(b.1933)とロンドン響のモーツァルトといえば、ルドルフ・ゼルキン(1903-1991)と共演した一連のモーツァルトのピアノ協奏曲が思い浮かぶが、当時、ロンドン響の首席指揮者に就任したばかりのアバドによるモーツァルト録音の発端となったレコーディングで、交響曲第40番と共に収録された貴重な音源。ここで聴かれるジュピターは、ロンドン響の個々のセクションの音色が絶妙にブレンドされ、モーツァルトにふさわしい明朗な響きを奏でているが、アバドの作り出す音楽の流れに今一つ勢いが感じられず、どことなく平坦な印象を受けた。しかしながら、以前エントリーしたブラームスの交響曲から受けた印象と同様に、ロンドン響の品格が漂うストリングスが堪能できるのは嬉しい。なお、本ブログでは古い音源になるが、ロンドン響のモーツァルト録音という点ではかつてクラリネット協奏曲もエントリーしていた。
■クラウス・テンシュテット指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
(1985年9月録音、ロイヤルアルバートホール、ロンドンにて収録、BBC LEGENDS海外盤)
以前エントリーしているディスクの為、詳細はそちらに譲りたいが、テンシュテット(1926-1998)の強い熱意と意志を感じる演奏。ライヴゆえか、アーティキュレーションが定まっていない箇所もあるが、ひたすら前に突き進むテンシュテットのタクトに見事に応えるロンドン・フィルも実に勇ましい。モーツァルトがマーラーのように聴こえてしまうように感じるのは彼のマーラーを知ってしまっている所以か。自己をさらけ出したジュピターだ。なお、なお、本ブログでは同じライヴ音源となるが、ロンドン・フィルによるモーツァルトという点ではフランツ=ヴェルザー=メストによるレクエイムをエントリーしている。
■エマニュエル・クリヴィヌ指揮 フィルハーモニア管弦楽団
(1988年11月録音、セント・ジュード教会、ロンドンにて収録、DENON国内盤)
マイベスト盤の一つ。芳醇な歌に満ち溢れたモーツァルト。全ての楽章において呼吸を感じる演奏で、ストリングスによるニュアンスの付け方が絶妙。時にクリヴィヌ(b.1947)自身と思われる唸り声が聞こえるが、彼のモーツァルトに対する確かな手腕は、クリヴィヌ自身がヴァイオリニスト出身(かつてヘンリク・シェリングに師事)である事とも関係があるのかもしれない。実際、クリヴィヌはこのジュピターを含め、モーツァルトの交響曲の中から16曲をピックアップして、1988~1990年にかけフィルハーモニア管とポーランドのシンフォニア・ヴァルソビアの二つのオケを振り分けてレコーディングを行っており、彼にとっての意欲作となっている。
クリヴィヌの意図を忠実に表現するフィルハーモニア管が実に素晴らしく、1楽章から期待感を募らせてくれる。フィルハーモニア管によるモーツァルトは、本ブログでもかつて、ジュリーニ指揮の「リンツ」やレクイエム、ヴァシャーリ指揮によるオーボエ協奏曲、タックウェルによるホルン協奏曲等の名演をエントリーしているが、もっと英国のオケがモーツァルト演奏の最前線に出てもいいと思う。
収録には教会ならではの残響成分がうまくブレンドしており、録音も優秀。日本を代表するレーベルであるDENONが録音したモーツァルトの名盤としてもおすすめしたい音源だ。