この度の大地震で被災された方々に、心よりお見舞いを申し上げます。一日も早い復興を祈願して、今回も最新ディスクよりエントリーしたい。
吹奏楽界の人気作曲家、ジェイムズ・バーンズ(b.1949)の「交響曲第3番」の決定盤がついに現れた。昨年、2010年の6月、大阪市音楽団の定期公演をライヴ収録したアルバムが、この度フォンテックよりリリース。圧倒的名演との評価だっただけに、首を長くしてリリースを待っていたかいがあった。既に、同曲のベスト盤として、やはり大阪市音楽団が木村吉宏氏のタクトの下、初演後の1997年にセッション録音された名盤を以前エントリーしていたが、今回はある意味、その名盤を塗りかえた、といえるかもしれない。その背景には、第100回という記念の定期演奏会であった事に加え、作曲者臨席のもと、同曲の世界初演を務めた彼らなりの自負もあったのだろう。当夜のプログラムを収めたアルバム収録曲は以下の通り。
ヨハン・デメイ:交響曲 第1番 「指輪物語」
ジェイムズ・バーンズ:交響曲 第3番 作品89
秋山和慶 指揮 大阪市音楽団
(2010年6月12日録音、ザ・シンフォニーホールにてライヴ収録、フォンテック国内盤)
指揮を務めたのは、同団の特別指揮者であり、芸術顧問を務める秋山和慶氏(b.1941)。元々クラシック畑の名指揮者だけに、交響曲を振るのはお手のものだが、歴史に残る名演となったのは、楽団員から沸き出るパワーを余すことなく一つに束ね、演奏に昇華させた結果ともいえるだろう。
印象に残るのは、第3楽章と第4楽章。第3楽章には、まるでマーラーの交響曲第5番のアダージェットを思い起こさせる静謐さがある。もともと娘ナタリーの死を偲ぶ楽章だけに、大阪市音のメンバーも、一音一音に想いを込めて演奏しているのが伝わってくる。折しも、今回の地震で亡くなった人々への鎮魂歌としても聴こえてくる。
第4楽章はこの交響曲の集大成とでもいえる楽章。苦悩から歓喜へと至るこの曲の、「歓喜」にあたるこの楽章にかける燃焼度の高さは、まさにライヴならではといえるもの。冒頭からの快速なテンポ運びとホルンの咆哮は、以前エントリーした飯森範規氏&大阪市音のスミス「華麗なる舞曲」での感動を思わせる。多少音が安定していなかったり、コーダ部分では、トランペットのハイトーンがとんでしまうような箇所はあるものの、そこはライヴだけにご愛嬌。むしろ、音楽としての推進力と、この曲が持つ生命力にエネルギーがじわじわと漲ってくるのを感じる。この曲の完成度の高さに改めて感服すると共に、作曲者の意図以上のものを引き出せたのは、やはり大阪市音楽団だからこそ、とも思った。もちろん、木村吉宏氏とのセッション盤も素晴らしく、ウィンド・バンドを知り尽くした木村氏ならではの緻密な設計が光った演奏。秋山盤は、ブラスが強めに出た収録で、ややデッドな音響になっているのに対し、木村盤は残響がたっぷりと取られた丁寧な録音で、今もってお気に入りなアルバムである事も特筆しておきたい。
演奏が終わるや否や、場内に飛び交う「ブラボー」が収録されているのも、当日のライヴの興奮ぶりを伝えてくれる。クラシック畑の名指揮者が名門吹奏楽団と共に創り上げたウィンド・バンド・レパートリーによる歴史的な名演。吹奏楽とクラシックには垣根はない事を改めて感じさせた。