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チャイコフスキーの弦楽セレナーデは昔から愛聴してきた曲の一つだ。一時期N響アワーのテーマ曲だったこともあり、その頃から色々な演奏で聴いてきた。この曲が好きな理由はチャイコフスキーのメロディーメーカーとしてのセンスを楽しめると共に、そのオケのストリングスセクションの実力を思う存分堪能できる事。特に小沢征爾指揮によるサイトウ・キネン・オーケストラによる演奏には、日本人でここまで熱い演奏が出来るのか、と感銘を受けたものだ。その他にもサー・コリン・デイヴィス指揮バイエルン放送交響楽団による演奏等、いくつかの愛聴盤があるが、ここにウィーン室内管弦楽団による新たな名盤が加わった。(ナクソスレーベル)

演奏は、一筆書きの草書体ような、実に流麗な弦楽セレナーデ。一気に聴くことが出来た。ロシアの作曲家特有の重々しさはここにはない。

特に1楽章の序奏部はいつもだと重戦車のようにコントラバスが鳴りまくるのだが、室内オケという事もあって、ここではストリングスセクションの一楽器として見事に調和できている。
2楽章のワルツはまるでウィンナ・ワルツのよう!ウィーンの演奏家が奏でるウィーン流儀なワルツだ。ヴァイオリンが実によくメロディーを歌う。このワルツだけでも一聴の価値ありだ。
3楽章はどことなく郷愁を漂わせるエレジー。ドボルザークの家路を感じさせるメロディーだ。他の楽章に比べると地味なのだが、噛めば味のするスルメと同じで、聴く程に味わいが出てくる。
そして終楽章。エネルギーが沸き立つ楽章だ。ここでも1楽章同様、旋律を重々しく引きずる事なく、一気に聴かせてくれた。

室内オケは一般的に人数も30人未満の編成の場合がほとんどだが、ここではその機動性の良さが演奏にもよく現れている。オケのメンバー同士、気心も知れているのだろう。お互いの信頼関係がなければこのような演奏はなし得ない。
その演奏を一つに束ねているのがフィリップ・アントルモン。アントルモンといえばピアニストとしてお馴染みであるし、最近もNHK教育の「スーパー・レッスン」に登場する等、今でも現役だが、指揮者としても長らく活動しているという。このウィーン室内管弦楽団の指揮者には1976年に就任しているから、90年の録音当時、既に就任14年になる。

流麗な演奏はアントルモンのピアニズムとも関係があるのかも知れない。ヴラディミール・アシュケナージや、ミハイル・プレトニョフ等も現役ピアニストの指揮者達だ。

録音会場はウィーン・バウムガルトナー邸となっているが、これは日本の名レーベル、カメラータのメイン収録会場であるスタジオ・バウムガルテンと同一だろう。室内オケの聴かせ所満載の名録音に仕上がっている。