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英国のレーベル、BBCレジェンズがこの所、快進撃を続けている。国営放送ならではの強みである過去の放送用アーカイブを、次々とCD化。いずれも歴史的価値のあるライブで、クラシックファンには嬉しい限りだ。今日はつい先日リリースされたばかりのゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮、BBC交響楽団による「くるみ割り人形より第二幕の組曲」を。

一大スペクタクルな演奏。こんな気迫のこもった熱い「くるみ割り人形」は聴いた事がない。'87年8月、プロムスでのライブ。会場の巨大なロイヤルアルバートホールの長めの残響と相まって聴衆の熱気までが伝わってくるようだ。

指揮のロジェストヴェンスキーは過去何度もプロムスに登場している常連。70年代にレニングラードを指揮したチャイコフスキーの「第4番」や「くるみ割り人形」と同じ80年代のチャイコフスキーの「眠れる森の美女」は既にBBCレジェンズによってCD化されており、いずれも名演だ。

ロジェストヴェンスキーにはロンドン交響楽団によるチャイコフスキー後期3大交響曲等のセッション録音によるアルバムもあり、もちろん名盤も多いのだが、意外と落ち着いた演奏が多い。やはりライブこそがロジェストヴェンスキーの本領発揮の場なのだろう。クラウス・テンシュテットやラファエル・クーベリック等、自分の敬愛する指揮者にはこのライブ熱血型?が多い。

ロシアの踊り「トレパーク」。この曲はそのリズミカルなテンポ次第で組曲の印象が変わる位、好きな曲だが、ここではオケを煽れるだけ煽って盛り上げるライブならではの良さが出ている。
そして有名な「花のワルツ」。楽員のボルテージが徐々に上がっているのがひしひしと伝わってくる。こんなにワクワクした演奏は聴いた事がない。中間部のチェロの旋律もとても美しく鳴っている。ハイライト用の組曲ではないので、この「花のワルツ」はまだ終曲に位置しないのだが、フライングの拍手が録音でもはっきり聞き取れるのも無理はない。そしていよいよ本来のフィナーレへ。圧倒的なクライマックスも一気に突き進み、聴衆から割れんばかりの拍手喝采。聴き終わってお腹が一杯になるのを感じる。

'87年のライブから10年後の'97年、自分がこのロイヤル・アルバートホールでプロムスを聴いていた。そこで聴けたサイモン・ラトルやベルナルト・ハイティンク、サー・コリン・デイヴィスの名演の数々。いつしかこのBBCレジェンズでCD化される事を望みたい。

余談だが、イギリスのオケはロシアやドイツ系の指揮者と相性がいいようだ。
ロシア系ではロイヤル・フィルを率いて来日した事もあるヴラディミール・アシュケナージ、ロンドン交響楽団といくつもの名演を残しているムスティフラフ・ロストロポーヴィッチ、そして次期ロンドン響指揮者のワレリー・ゲルギエフ。
ドイツ系ではロンドン交響楽団と結びつきの深いアンドレ・プレヴィンやオイゲン・ヨッフム、カール・ベームらがそうだ。

イギリスのオケが好きな理由は、ヨーロッパの文化でありながらも伝統だけに縛られず、伝統と先進性が互いに共存している事。日本と同じく島国でもあり、中立的な視点で曲解釈にのぞめる環境があるのかもしてない。

それは日本も同じ。ヨーロッパの文化圏ではないものの、その図りしれない影響とアジア文化のブレンドにより、より深い領域で音楽を感じられる精神性があるように思う。