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N響「夏」2013公演を聴く。N響を聴くのは昨年のサンサーンス:交響曲第3番「オルガン付」の公演以来。指揮は今回、N響と初共演となるアンドルー・マンゼ(b)。トレヴァー・ピノック(b.1946)の後、2003~2007年までイングリッシュ・コンサートの音楽監督を務め、また自身もバロック・ヴァイオリンの名奏者として名を馳せるマンゼ(b.1965)の斬新な指揮ぶりが今回の関心の一つだった。レパートリーはN響の得意とするドイツ・オーストリアもの。今宵のプログラムは以下の通り。

モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲
モーツァルト:フルート協奏曲 第2番 ニ長調 K.314
フォッブス:モーツァルトの「魔笛」による幻想曲
ベートーヴェン:交響曲 第3番 変ホ長調 作品55「英雄」

アンドルー・マンゼ指揮 NHK交響楽団
エマニュエル・パユ(フルート)


オープニングの「フィガロの結婚」も良かったが、前半の聴き所はベルリン・フィルの首席奏者であり、ソリストでもあるエマニュエル・パユ(b.1970)を迎えてのフルート協奏曲第2番だろう。「のだめカンタービレ」でもお馴染みとなったこの曲、パユはパフォーマンス性に富んだソロを披露してくれた。アーティキュレーションが的確で、ホールいっぱいにフルートのソロがこだまする。「魔笛」による幻想曲はさながら、パユにとってのアンコール・ピースとでもいれる位置付け。ベルリン・フィルの首席奏者でもある彼のキャリアは、どことなくジェイムズ・ゴールウェイ(b.1939)との共通点を感じさせた。

しかし、この日の白眉はやはり「英雄」。マンゼは冒頭の二音の主部を含め、全体的に早めのテンポコントロールで展開。ティンパニにアクセントを効かせるあたり、ピリオド・アプローチを思わせるが、モダン楽器からフレッシュなサウンドを引き出してみせた。様々な解釈があろうとも、「英雄」としての存在感が変わらないのはやはりベートーヴェンならではの作風といえる。トランペットは抑え目ながら、ホルンはスケール感のある吹きっぷりだった。思えば「英雄」を生演奏で聴いたのは今回が初めてだったかもしれない。

満場の拍手に応え、アンコールにはスウェーデンの作曲家、アルヴェーンの「山の王」より「羊飼いの娘の踊り」という珍しい曲が演奏された。これがウィーン・フィルのニューイヤーコンサートで演奏されそうなポルカ調の曲でユニークだった。この辺り、マンゼの人柄が出た選曲といえるだろう。蒸し暑い一日だったが、心に納涼をもらえた、そんな一日だった。