ベートーヴェン、モーツァルトに続き、今年三回目となった「熱狂の日」音楽祭の今回、職場の上司と「熱狂の日」音楽祭を聴きに東京国際フォーラムに行ってきた。自分は初めてだが、上司は昨年のモーツァルトに続き2回目の「熱狂の日」通。その初日のプログラムの中から2公演を聴く。今年のテーマは「民族のハーモニー」。国民楽派と呼ばれる作曲家の中からフォーレの「レクイエム」とスメタナの「わが祖国」を。
東京国際フォーラムに着くや否や、予想はしていたものの たくさんの来場者でごった煮。さすが3回目ならではの定着感を感じさせる。着いたのはちょうどボリス・ベレゾフスキーによるラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の公演が終わった頃だった。「のだめ」効果もあったのか、この公演のチケットは既に完売。残数のある当日券も30分待ちで並ぶという状況だった。明日からの本格連休を前に今年も相当な盛り上がりぶりだ。
そんな中、本日最終のコルボの公演は夜22時半開演というまさに深夜のコンサート。さすがに首都圏居住者でないと日帰りでは聴けないだろう。おかげでチケットも余裕で1階20列目という絶好の席を取る事が出来た。これで3千円だから有難いものだ。
コルボといえばフォーレの「レクイエム」。1972年のエラートレーベルへの録音が名盤としてよく取り上げられる。以前、取引先の方の車のBGMにこのエラートのコルボ盤が流れていたのを思い出した。実際、その方は熱心なコルボファン。今回の「熱狂の日」にも聴きに行くという。
自分にとっても学生時代、男声合唱で「ピエ・イエズ」を歌った事もあって懐かしの曲。そんな名盤から35年が経ち、当時38歳だったコルボも今や73歳。円熟の境地に達したコルボが生でどんな演奏を聴かせてくれるのか、興味は尽きなかった。
ローザンヌ声楽アンサンブルはコルボが1959年に組織した、知る人ぞ知る合唱団。当夜は合唱が約30名での編成。オケはシンフォニア・ヴァルソヴィア、編成はもう一まわり小さく、オルガンを加えても20名位か。
盛大な拍手に迎えられて名匠コルボが登場。足取りはしっかりとしている。
指揮棒が振り下ろされた瞬間、場内は静寂に包まれる。5千人収容の大ホールの長い残響の空間がまるで大聖堂の中にいるようにも感じる。
ローザンヌ声楽アンサンブルは無理のない、自然な発声。フォルテになろうとも、力で押す事は決してない。2名のソリストも合唱団とブレンドした響きを作り出しており、まさにコルボの目指すフォーレ像が伝わってくる。
有名な「ピエ・イエズ」、ここでは通常起用される事の多いボーイ・ソプラノではなく、女声ソプラノによるソロ。オルガンの伴奏に支えられて実に神々しい歌声が静寂の空間に響き渡った。出番はここだけともったいない位の素晴らしさだった。
次の「アニュス・デイ」も個人的に好きな曲。「ピエ・イエズ」と共にどこか癒しを与えてくれる旋律だ。
終曲が終わって一部スタンディング・オベーションも出る熱狂的な拍手。楽団員が去った後も鳴り止まない熱狂的な拍手に応えてコルボが舞台袖から出てきてくれた。自分を含め終電の時間を気にしていた人もいたに違いない。コルボの生み出した音楽への賛美に、ああ、純粋に音楽が好きな人達がたくさんいるんだな、と嬉しい気持になった。
今回も期間中に5公演をこなす多忙ぶり。コルボが何か雑誌のインタビューで音楽普及への思いを強くしているという記事を読んだが、巨匠の積極的な出演を喜びたい。
なお、20時15分開演の小泉和裕指揮 東京都交響楽団によるスメタナの「我が祖国」も前半の4曲の演奏だけではあったが、それがかえって交響曲のような構成を感じさせ、聴きやすかった。こちらは2階席で音響面で心配していたが、意外と隅々まで音が行き渡る音響設計になっているようで、安心して聴けた。
昨今、色んな事件で世間が暗くなるニュースも多い中、クラシックが人々に癒しを与え、演奏家と聴衆が身近に交流できるこのような場が今こそ求められているように思う。日本にもこの企画のアーティスティック・ディレクターであるルネ・マルタン氏のような人の出現を望みたいものだ。この「熱狂の日」音楽祭が単なる一過性のブームに終らず、次年度以降も人々を平和な気持ちで満たすイベントに育っていく事を願ってやまない。
5月に入り、自分にとっても新しいスタートの一日となった。
お土産に会場内限定販売というフランス・ナントでの本場「熱狂の日」ライブCDについつい目がくらんでしまい、購入。「限定」という言葉に弱い自分・・・(^^;
帰宅してコルボのエラート盤を聴いて今日の感動に再度浸る。
まさに「熱狂の日」の一日となった。