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以前、ジノ・フランチェスカッティ盤でも取り上げたバッハの「ヴァイオリン協奏曲」は、朝の通勤時にもよく聴くお気に入り曲の一つ。最近、この「ヴァイオリン協奏曲」のディスクが増えた事もあり、有名な第2番(BWV1042)を以下の3つの団体で聴き比べてみた。無名でありながら、名演を聴かせてくれた団体、著名な団体でありながら、自分にはいま一つ肌に合わなかった演奏・・・それぞれに個性の違いがあり、改めて楽しむ事ができた。今回の聴き比べで感じたのは、まだまだ世の中に知られていない素晴らしい演奏家がたくさんいるということ。大切なのは、自分の耳を信じ、自分にとってフィットする演奏と出会う事なのだろう。そこに、演奏を聴く醍醐味があると思う。(ジャケット画像:左上より時計回り)

○ロナルド・トーマス(Vn) THE SOLOISTS OF AUSTRALIA
 (1986年2月26・27日録音、パース・コンサートホールにて収録、CHANDOS輸入盤)


現状のマイベスト盤。ソロと伴奏に一体感があり、演奏者同士のコミュニケーションが通い合ったハートフルな演奏に仕上がっている。ソロが実に伸びやかに奏でられるのは、ソリストを務めるロナルド・トーマスと、メンバーとの信頼関係がなせる技でもあるのだろう。
ロナルド・トーマスは、英国とスイスで学んだオーストラリア出身のヴァイオリン奏者。1979年には英国のボーンマス・シンフォニエッタ(ボーンマス交響楽団の姉妹オケ。1999年に解散)の音楽監督に就任するなど、ソリスト、指揮者の両面で活躍している。

THE SOLOISTS OF AUSTRALIAは 、ライナー・ノーツによると、常設の団体ではなく、パース音楽祭を中心とした臨時編成の室内オケで、メンバーはオーストラリア内外の一流奏者が集っているという。普段はソリストとして活躍している面々が多いと思われるだけに、実力の高さが窺われる。

CHANDOSの録音がまた素晴らしい。収録会場のパース・コンサートホールは、オーストリア南西部の州都に位置するホール。オーストラリアでは音響のいいホールとして有名だが、太陽光がさんさんと降り注ぐ教会の中で収録されたのような、太陽の恵みを感じる残響豊かな録音で、聴いていて実にすがすがしい気持ちにさせてくれる。ジャケット写真は、そのパース・コンサートホールの前で撮ったものかもしれない。オーストラリアの2月は日本では真夏に当たるだけに、緑豊かなロケーションの中、メンバー一人一人の笑顔が素敵だ。

○ギドン・クレーメル(Vn) アカデミー室内管弦楽団
 (1982年2月録音、ロンドンにて収録、フィリップス輸入盤)


1楽章からぐっと急速なテンポで展開。ギドン・クレーメル(b.1947)自身が弾き振りをしているので、クレーメルの個性が強く出たテンポとなっている。そんなクレーメルのテンポ感に影響されたからだろうか、伴奏のアカデミー室内管が、まるで古楽器オケような斬新なサウンドで響いてくる。指揮にネヴィル・マリナーが加わっていれば、このような響きは中々聴けないだろう。通常であれば、クレーメルのヴィルトゥオーゾなソロだけが目立ってしまいがちだが、伴奏もソロにぴったりとついてくるあたり、アカデミー室内管のハイレベルぶりが窺われる。

トータルバランス的な総合力では、個人的にザ・ソロイスツ・オブ・オーストラリアが好きだが、早いテンポ感や斬新なバッハ像を望みたい時には好まれる一枚。気分によって楽しみたい。

○フェデリコ・アゴスティーニ(Vn) イ・ムジチ合奏団
 (1989年7月録音、ラ・ショード・フォン、スイスにて収録、フィリップス国内盤)


ヴィヴァルディの「四季」で世界的な脚光を浴びた名団体。イ・ムジチ合奏団のディスクはあまり所有していなかった事もあり、この機会に聴いてみた。上記の2団体に比べると、今一つ、テンポに乗り切れていないように感じる。アレグロ楽章の1、3楽章は、3団体の中では最もゆったりとしており、それが自分のテンポ感に合わない事が理由として挙げられるが、ロナルド・トーマス盤で感じられたようなソロと伴奏の対話(コミュニケーション)がやや不足気味なのもいま一つ。ソロを務めるフェデリコ・アゴスティーニは、1986年にまだ20代という若さでイ・ムジチのコンサートマスターに就任。就任後、3年が経った録音ではあるものの、もう少しキャリア的な成熟を求めたい時期だったのかもしれない。
名団体が必ずしも自分の耳にフィットするとは限らない、という事を実感したいい例となった。