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ワーグナー生誕200年記念として、英国・米国オケ編に引き続き、欧州及びその他エリアのオケによる歌劇「ローエングリン」第3幕への前奏曲を。ワーグナーに縁のあるオケやライヴ録音、全曲版も含まれ、興味深い聴き比べとなった。英国・米国オケ編に比べて今回のエントリーで意外に感じたのは、終結部は通常形が多く、禁問の動機が含まれた終結部の音源は1つのみだった点。自分にとってのマイベスト盤に出会うべく、それぞれの印象を綴ってみた。(ジャケット画像:左上より時計回り)

■若杉弘指揮 シュターツカペレ・ドレスデン
 (1984年12月録音、聖ルカ教会にて収録、ソニー国内盤)


以前エントリーしたアルバム「WAGNER IN DRESDEN」に収録。これぞワーグナー・サウンドというべき演奏で、前回の英国・米国オケ編を含めた中でのマイベスト盤となった。単に巧いというだけでなく、ワーグナーならではの重厚感が演奏にもにじみ出ているのを感じる。実際、「ローエングリン」はワイマールでの世界初演以前に、ドレスデンで試演されており、歌劇場オケであるシュターツカペレ・ドレスデンにとっての誇りとなる演目でもあるのだろう。当時、若杉弘(1935-2009)の50歳のアニバーサリーとなった録音でもあり、祝祭感に満ち、日本人として本場ドレスデンで成し遂げたワーグナー録音として貴重なドキュメントだ。(終結部:通常形)

■ラファエル・クーベリック指揮 バイエルン放送交響楽団
①1965年4月録音、東京文化会館にて収録、Altus国内盤
②1971年録音、ヘラクレスザール、ミュンヘンにて収録、グラモフォン海外盤


①ライヴ盤
欧州オケ編では、若杉盤に続く次点のマイベスト盤。クーベリックはやはりライヴで白熱した演奏を聴かせる事を証明する演奏。しかも、初の日本公演でのアンコールという貴重な音源で、オケの白熱ぶりも尋常ではないだけに、当時の聴衆もきっと興奮したに違いない。1960年代の録音ながらAltusの高品位なリマスタリングのおかげで、鮮明に聴けるのが有難い。(終結部:「禁問の動機」含)

②セッション録音盤
全曲版からの収録音源。本番の進行スタイルに則った収録だけに、「巡礼の合唱」につながる流れがつかめるのが有難い。ライヴ盤に比べるとテンポが遅くなり、冒頭のホルンが弱い等、パンチに欠ける部分はあるものの、全体的にはバランスの取れた仕上がりとなっている。

■クラウス・テンシュテット指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 (1982年12月、1983年4月録音、フィルハーモニーホール、ベルリンにて収録、EMI国内盤)


以前エントリーしたアルバムの収録曲。ベルリン・フィルならではの密度の高い濃厚なサウンドが聴けるローエングリン。全体がフォルテッシモで鳴っても騒々しく聴こえないのは個々奏者の技量のゆえだろう。カラヤン時代のベルリン・フィルながら、テンシュテット色に染まっているのも見事。個人的にはロンドン・フィルとのライヴ音源も聴いてみたかった。(終結部:通常形)

■カール・ベーム指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 (1980年6月録音、ムジークフェラインザール、ウィーンにて収録、グラモフォン国内盤)


以前エントリーしたベーム&ウィーン・フィルによるもの。咆哮するウィンナ・ホルンにウィーン・フィルならではの特長は出ているものの、マイスタージンガー前奏曲で聴かれたような男性的な勇ましさはここでは影をひそめている。晩年のベーム(1894-1981)にとって、威勢のいいテンポ運びが印象を左右するこの曲を指揮するのは、やや辛かったかもしれない。(終結部:通常形)

■ヴラジーミル・フェドセーエフ指揮 モスクワ放送交響楽団
 (1993年11月録音、Hall of Slovak Radio Bratislava、MUSICA海外盤)


ここからロシアのオケを2つ。アルバム「Encores」に収録。テンシュテットと同じく、情熱的なタクトさばきが印象的なフェドセーエフだけに期待をしていたものの、冒頭のホルンがほとんど聴こえず、魅力が一気に半減してしまった。マイナーレーベルでのスロヴァキアでの録音という珍しい音源。(終結部:通常形)

■エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
 (1965年2月録音、モスクワ音楽院大ホールにて収録、BMG国内盤)


実に過激なローエングリン。ライヴである事も影響しているのだろうが、多少の粗削りをものともせず、これ以上の早さはあり得ないと思われるテンポに、甲乙の分かれるところ。特に歓喜の主題で、トロンボーン以上に伴奏のトランペット刻みが派手に鳴っていたのには、唖然とさせられた。カリスマ性のあるムラヴィンスキーゆえの演奏だが、自分にはある意味、レニングラード・フィルのショーピース的な演奏にしか聞こえなかった。同アルバムには、やはり爆演で有名なグリンカの「ルスランとリュドミラ」序曲も収録されている。(終結部:通常形)

■飯守泰次郎指揮 名古屋フィルハーモニー交響楽団
 (1996年4月11日録音、名古屋市民会館大ホールにてライヴ収録、自主製作盤)


最後に日本のオケを。以前エントリーした飯守泰次郎&名古屋フィルによるライヴ録音。今回エントリーした他のオケに比べればパワーの面ではやや小ぶりながら、ワーグナーの気迫を感じる熱演で充分に健闘している。日本のオケの力量を伝える頼もしい音源。(終結部:通常形)