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まさにレジェンドの再来といえる一夜だった。ウラジーミル・フェドセーエフ(b.1935)&NHK交響楽団による公演。高校時代、音楽鑑賞でフェドセーエフ&モスクワ放送交響楽団による超猛烈スピードなハチャトゥリアンの「レスギンカ」のVTRを観て以来、自分の中でフェドセーエフは伝説の人になっていたが、時は過ぎ、今年85歳を迎えるフェドセーエフの実演を聴けるとは思ってなかった。しかも、アンコールでその「レスギンカ」が目の前で再現!さすがに当時のVTRのようなレスギンカほどのスピード感はなかったものの、熟練のタクトから繰り広げられるレスギンカのロシアン・サウンドはまさに感涙ものだった。高齢にも関わらず、指揮台にもぴょんと飛び乗るフェドセーエフの姿はどこかお茶目で、元気な指揮姿が拝めたのも幸いだった。当夜はオール・ロシアン・プログラムというフェドセーエフにとって打ってつけのもの。プログラムは以下の通り。

・ショスタコーヴィチ/祝典序曲 作品96
・チャイコフスキー/ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 作品23
・リムスキー=コルサコフ/スペイン奇想曲 作品34
・チャイコフスキー/幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」作品32

ウラディーミル・フェドセーエフ指揮 NHK交響楽団
ピアノ:ボリス・ベレゾフスキー


ショスタコーヴィチの「祝典序曲」は以前、N響のサントリーホール公演の実演に接した懐かしの曲。サントリーホールの時はブラスもよく鳴っていたが、ホール音響の違いゆえか、ブラスの鳴りが今一つ飛んで来ない。また、この曲にはスピーディーなテンポ感も求めたいが、ノリが今ひとつだった。ここはフェドセーエフの高齢さゆえかもしれない。中間部でキーとなるホルン・ソロのミスも少々気になった。
2曲目のチャイコンでソリストを務めるベレゾフスキー(b.1969)の演奏は2008年の「熱狂の日(ラ・フォル・ジュルネ)」でベートーヴェンの「皇帝」を聴いて以来。ベレゾフスキーのヴィルトゥーゾぶりは健在。ややゆったりめのテンポゆえか、やや緊張感欠けるところはあるものの、第3楽章終結部のクライマックスはやはり聴きどころ。チャイコン覇者の手にかかると、この超絶技巧も指鳴らしのように聴こえてしまうのはさすがだ。曲が終了し、拍手喝采に応え、ベレゾフスキーのピアノ・ソロによるアンコール曲か、と思いきや、演奏されたのは、今終わったばかりの曲を終結部。ベレゾフスキーならではのアンコールともいえるが、2回も聴くとややパフォーマンス性が強調された感もあり、アンコールであれば、個人的にはピアノ・ソロ曲を期待したかった。

休憩後を挟んで演奏されたリムスキー=コルサコフの「スペイン奇想曲」はこれまで音源で親しんでいた好きな曲だったので、今回実演で聴けたのは嬉しかったが、ここでもやはりアップテンポな曲展開を求めたかったところ。自分にとって、当夜の収穫はメイン・ディッシュに据えられた「フランチェスカ・ダ・リミニ」だったかもしれない。「ロメオとジュリエット」のような人気曲の陰に隠れてか、これまで音源でもあまり聴いてこなかったが、交響曲第4番のようなテイスト(実際、交響曲第4番とはほぼ同時期の作品だった)があり、シンフォニックで交響曲を聴いているような感覚を味わえた。フェドセーエフの指揮も冴えていたように思う。

N響の団員を見回すと、メンバーもだいぶ世代交代が進んでいるようだ。首席を務めるトランペットの長谷川智之氏の音を実演を聴くのも初めて。今やトランペットセクションで最年長となった重鎮の井川明彦氏とほ2016年に定年を迎えた佛坂咲千生氏の姿を久々に拝めたも嬉しかった。