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ショパン、シューマンの生誕200年に続き、今年はマーラーの生誕150年(1860‐1911)にもあたる。自分自身、3月にマーラーの大作、交響曲第3番をマーラー解釈の第一人者、エリアフ・インバルの指揮で聴いたのが記憶に新しいが、今回はマーラーの代表作となった交響曲第1番「巨人」を、米国オケによるアルバムで取り揃えてみた。「巨人」はブラス・セクションが縦横無尽に活躍する曲でもあるが、そんな機能的な演奏は、米国オケ・サウンドのカラーにも向いているように思う。まずは時代順に4つのオケによる「巨人」を。(ジャケット画像:左上より右回り)

○ブルーノ・ワルター指揮 コロンビア交響楽団
 (1961年1~2月録音、カリフォルニアにて収録、ソニー国内盤)


マーラーの弟子であり、マーラー解釈の第1人者、ワルターが、晩年に組織されたコロンビア交響楽団によってレコーディングされた音源で、「巨人」の歴史的名盤といわれるもの。元祖「巨人」とでもいえる演奏で、現代のオケに比べ、テクニック面でのギャップを感じるものの、当時としては先端をいく演奏。コロンビア交響楽団は、ロス・フィルのメンバーも含まれた米国西海岸の臨時編成のオケながら、ストリングス・セクションはワルターとのセッションによって、マーラーの思索的な一面を見事に聴かせてくれる。
60年代のステレオ初期の録音の為、ダイナミックレンジ上の限界はあるが、2楽章冒頭のコントラバスの弓のきしみ等、臨場感溢れる録音が素晴らしい。エントリーしたアルバムはプロデューサーのジョン・マックルーアによる初期盤。

○ズービン・メータ指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック
 (1980年11月録音、エイヴァリー・フィッシャー・ホール、ニューヨークにて収録、ソニー国内盤)


メータ(b.1936)が1978年にロス・フィルの首席指揮者を離れ、ニューヨーク・フィルの音楽監督(1978‐1991)に就任した初期のレコーディング。第4楽章冒頭部分の、荒れ狂うパッセージを聴いて、マーラーの「巨人」という曲を初めて知ったのがこのメータ&ニューヨーク・フィル盤だった。ニューヨーク・フィルらしい、開放感あるゴージャスなサウンド(特にトランペットとホルンが印象的)が味わえるのだが、燃焼度は今一つ。メータが、1996年にN響を振った唯一の「巨人」(サントリーホール公演)では、テンションの高い名演を繰り広げていたのだが・・・。デジタル初期の録音の為か、今一つソリッドな響きがするのが残念。

○小澤征爾指揮 ボストン交響楽団
 (1987年10月録音、シンフォニー・ホール、ボストンにて収録、PHILIPS国内盤)


中学2年時に確かクリスマス・プレゼントとして購入した思い出のアルバム。ボストン響は、米国の中で最も欧州的な響きのするオケと思うが、それはメイン会場のシンフォニーホールの豊かな残響によって育まれているのだろう。欧州オケのレコーディングに長けたフィリップスによる録音もこれに寄与している。
マーラーならではの音響世界が繰り広げられるシンフォニックな演奏となっている半面、内面的な表現度は今一つだが、トランペット・セクションがとにかく巧い。当時は52歳だった小澤征爾も今年75歳。何より、今秋、食道癌との闘病生活から指揮活動に戻った小澤氏の復帰を喜びたい。

○マンフレッド・ホーネック指揮 ピッツバーグ交響楽団
 (2008年9月録音、ハインツ・ホール、ピッツバーグにてライヴ収録、EXTON国内盤)


所有する「巨人」のCDの中での最新アルバム。マンフレッド・ホーネック(b.1958)はウィーン・フィルのコンサート・マスター、ライナー・ホーネックの兄で、自分自身、かねてより注目していた指揮者の一人。その彼が2008年に音楽監督に就任したピッツバーグ交響楽団を振っての最新録音というので、大いに関心を持って購入。レコード芸術誌面では絶賛されていたし、ウィーンに縁のあるマーラーにとって、ホーネックに対する期待度は高かったのだが、その良さが自分には今一つ感じられなかった。ピッツバーグ響は、アンドレ・プレヴィン在任期(1976‐1984)のフィリップス音源を所有しているが、上品な響きを持ったオケ・サウンドに感じる。SACDハイブリッド盤だけに音も上質。