久しぶりに晴れ渡った週末だった。そんな気分のいい天気の日にモーツァルトのピアノ協奏曲第23番をリチャード・グードが演奏したディスクを取り出した。
以前、行き付けのCDショップで流れていたBGMで、ベートーヴェンのソナタの終楽章が自分の耳を捉えて離さなかった。それがリチャード・グードの演奏に出会うきっかけだった。確実なテクニックと起伏の大きな音楽。それ以来、グードは情熱的なベートーベン弾きだと思っていた。
そんなリチャード・グードのモーツァルトを、彼の師、ルドルフ・ゼルキンの演奏と共に聴いてみた。
○リチャード・グード盤
オルフェウス室内管弦楽団
('81年12月録音、RCAスタジオにて収録、ワーナー国内盤)
一聴して、こんなエレガントなモーツァルト弾きがいたとは!と一気に引き込まれた。
グードは'43年生まれの米国ニューヨーク出身。カーティス音楽院でルドルフ・ゼルキンやホルショフスキーに師事を受けている。
情熱的なベートーヴェン弾きの印象とは一転、軽妙で愉悦溢れるモーツァルトを聴かせてくれる。3楽章のコロコロと転がるピアノの妙といったら!グードが心底モーツァルトを楽しんで弾いているのがディスクを通じて伝わってくる。
オケのオルフェウス室内管弦楽団の寄り添い方がまた絶妙だ。指揮者を置かない、このオケならではカラーもあるのだろう、自発性に富み、ピアノと共に実に生き生きとした演奏となっている。ストリングスはもちろんの事、2楽章のクラリネットソロも伸びやかで気持ちいい。
なお、ピアノはニューヨーク・スタインウェイを使用。ピアノもオケもアーティストも(ついでにレーベルの「ノンサッチ」も)米国発。メイド・イン・USAによるモーツァルト演奏の一つの理想的な名演だと思う。間違いなくマイベスト盤になる演奏となった。
録音はもう少し音場感にクリアさを求めたいものの、ピアノがオン・マイクになりすぎておらず、オケとのバランス感には優れている。
○ルドルフ・ゼルキン盤
クラウディオ・アバド指揮ロンドン交響楽団
('82年10月録音、キングズウェイホールにて収録、
ドイツ・グラモフォン国内盤)
師匠であるゼルキンのテンポはグード盤よりずっとゆっくり。1楽章のアレグロではやや重く感じるも、2楽章のアダージョではそんなテンポが活きている。どこか悲しみを感じさせるこの楽章を、ゼルキンのピアノが一層かき立てる。録音では演奏中のゼルキンの声も聞き取れ、しみじみとピアノを鳴らす姿が想像できる。当時78歳。それは彼の長年の演奏家人生を通じたモーツァルト観のあらわれなのかもしれない。
一方の3楽章はアレグロ・アッサイではグード盤のテンポには及ばないものの、モーツァルトの躍動感を捉えた演奏となっている。静と動、明と暗の対比がモーツァルト演奏の面白さであり、モーツァルトの奥深さなのかもしれない。
当時のアバド&ロンドン交響楽団は絶好の信頼関係でゼルキンを好サポート。折りしもグードの録音から10ヶ月後の録音。この時期、既にアバドとの一連のセッション録音は進められていたが、弟子の録音にも多少なりとも影響を受けたのかもしれない。
録音はロンドンの定番、キングズウェイホールで行われており、グード盤よりぐっと音場感も増したドイツ・グラモフォン定番の名録音で聴ける。