今宵は1月に行った2つピアノコンサートを取り上げたい。共に個性的なプログラムで印象的な演奏会だった。
○有森 博コンサート(1月14日、東京文化会館・小ホール)
「国際コンクールで活躍する日本のピアノ」なるタイトルの企画コンサートで、日本ピアノ調律師協会の主催よるもの。第一部は先般のショパン国際コンクールで調律に携わったヤマハとカワイの技術者による対談が行われた。コンクールならでの悲哀ありのエピソードや苦労話が聞けて、プロジェクトXさらながらの貴重な裏話が面白かった。
第2部は2大メーカーのコンサートグランドピアノ、ヤマハCFⅢSとカワイSK-EXを使用してのコンサート。一つの演奏会で2つのメーカーの音を聴き比べる事は通常ないので興味深い。奥深く響く音を奏でたカワイの音色(ピアニスト:江尻南美)も素晴らしかったが、ヤマハを使用した有森 博氏の演奏は何より刺激的だった。ロシアものを得意とする有森氏がメインで取り上げたのは、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカからの3章」。ストラヴィンスキー特有の原始的なリズムのうねりを見事に引き出し、終楽章の「謝肉祭」は実にスリリングだった。その晩、オケ版を聴き直したほど、ピアノ版の面白さも心底味わう事ができた。音色は楽器の中にあるのではなく、演奏者が音色を作り出す、事を感じさせる名演だった。
ちなみにこの曲、「のだめカンタービレ」でのだめがコンクールで取り上げた事でも有名になった曲だ。この時点で自分はまだドラマ版を見ていなかったが、今思うと選曲自体も興味深かった。
○藤井隆史&白水芳枝ピアノデュオコンサート(1月25日、トーキョーワンダーサイト本郷)
昨年6月に東京文化会館小ホールで名演を聴かせてくれた藤井隆史&白水芳枝ピアノデュオのコンサートを聴きに行く。主催者である「トーキョーワンダーサイト」が若手演奏家の支援を行うコンサート企画で、選考を経て2組の入選が決まった内の一組が、藤井隆史&白水芳枝ピアノデュオだった。
若手の独自性を出したプログラムで、この日のメインテーマは「シューマン“天使の主題”をめぐるピアノの夜」。副題は「~ソロ、4手連弾、2台ピアノが織り成す、回帰の旅~」となっている。
曲は今回のテーマともなっているシューマンのピアノソロ曲(変奏曲 遺作‘天使の主題による変奏曲’)に始まり、メシアンの2台ピアノ、邦人作曲家・神本真理氏による新作初演(2台ピアノ)など実に意欲的なもの。
休憩を挟み、後半のプログラムでは1台4手による現代音楽(ジョージ・クラム:「天界の力学」)で始まったが、これは興味深い演奏だった。最初から最後まで立ちっぱなしでの演奏。弦を指で弾くなどの内部奏法が取り入れられ、1台のピアノから小宇宙が見事に表現されていた。ビジュアル的なパフォーマンスも含め、とても新鮮で刺激的なものだった。
そしてプログラムの最後は1台4手によるブラームスの「ロベルト・シューマンの主題による変奏曲」。シューマンに始まり、シューマンに大きな影響を受けたブラームスの作品で終わるという一貫性。この曲は以前リサイタルでも聴いた「ハイドンの主題による変奏曲」的なフレーズも感じられ、印象的な曲でもあった。
なお、コンサートの後にはこの企画に携わっている現代作曲家の一柳慧氏とのトークも。選曲までの経緯や内部奏法の苦労話…等など。普段、実演だけのコンサート上では聞けない演奏家の立場からのコメントを聞けたのは貴重だった。
今回、トーキョーワンダーサイトの活動というものを初めて知ったが、若手演奏家に演奏機会を提供するこのような場は重要だと改めて感じた。
なお、彼らのデュオ名は「ピアノデュオ ドゥオール」という名称に決まったという。これからの活躍が益々楽しみだ。