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先日オンエアされた「題名のない音楽会」は、実に興味深いものだった。すぎやまこういち氏(b.1931)と植松伸夫氏(b.1959)が出演し、「ドラゴンクエスト」と「ファイナルファンタジー」の代表曲が奏でられた。ゲーム好きの方なら誰もが知る名前だろう。ゲーム版は自分自身、今もって一度も体験した事がないが、ゲーム音楽は昔から好きなジャンルの一つだった。それは一重に、これらの音楽がオーケストラによって奏でられていたからに他ならない。映画音楽は「スター・ウォーズ」を始めとしてオーケストラによるサントラが多いが、ゲーム音楽の世界にもオーケストラが進出した事は画期的だった。クラシック少年だった自分にとっては、ゲーム音楽にはまるきっかけにもなった。

植松伸夫氏の音楽は、すぎやまこういち氏の音楽観とはまた一味違う。すぎやまこういち氏の音楽は、曲の構成や演奏形態がクラシック音楽の枠組みに近いのに対し、植松伸夫氏の音楽は、クラシック音楽の枠だけではなく、ヒーリング的な要素を持っている。それは世代の違いや、植松氏自身がプログレ等、他ジャンルの音楽に影響を受けている事にもよるのだろう。
また、「ドラゴンクエスト」の作曲・オーケストレーションはすぎやま氏自身の手によるものだが、「ファイナルファンタジー」においては、作曲は植松氏ながら、アレンジは浜口史郎氏を始めとした編曲家の存在も大きい。各楽曲に合わせて的確なアレンジが施されており、まさにチーム・プレイで築き上げられた音楽ともいえるだろう。

現在、所有する3枚のアルバムを聴きながら、特に印象に残る2曲を以下に綴ってみたい。(アルバムジャケット:日左上より時計回りに①②③)

■「メインテーマ」(「FFⅠ」よりオープニング)

(エントリーしたアルバム)
①交響組曲「ファイナルファンタジー」(POLYSTAR国内盤)
②「20020220ファイナルファンタジー オーケストラコンサート」(SQUARE ENIX国内盤)


まさに、ファイナルファンタジーの顔といえる楽曲。冒頭から主題が奏でられるが、その気品漂う旋律は、英国音楽でいうとウォルトンエルガーとの共通点を感じる。

①はファイナルファンタジー初期の頃のアルバムで、東京交響楽団による1989年5月20日に簡易保険ホールで録音されたライヴ盤。この時の編曲は服部克久・隆之親子で、指揮も服部克久氏という、今ではなかなか考えられない豪華ラインナップ。ライナーノーツでも植松氏が絶賛のコメントを寄せている。父の服部克久氏(b.1936)が、パリ留学からの帰国後、当時まだ23歳だった息子の隆之氏(b.1965)の国内での活躍の場としても良いタイミングと考えたのかもしれない。東京交響楽団は、安定した演奏を聴かせるが、やや慎重になりすぎて、積極性に欠けるのが残念。
このアルバムは全7楽章(7つのSCENE)からなるが、個々の楽章は、各シーンをメドレー風につなげたアレンジに仕上げられている。ファイナルファンタジーⅡの「フィナーレ」が収録された「SCENE 4」も出色。

②は2002年2月20日に東京国際フォーラムで行われたライヴ盤。演奏を担当した竹本泰蔵指揮&東京フィルハーモニー交響楽団は実に堂々とした演奏で、全体的にキレが良い。普段、オペラでも鍛えられているオケだけに、現代版オペラとも呼べるゲーム音楽にも彼らの強みを発揮するのだろう。オーケストレーションは浜口史郎氏が担当。①の服部克久版と比べると、より多彩なサウンドに仕上がっており、ファイナルファンタジーの完成形といえるだろう。
以前、「ニュー・シネマ・パラダイス」やアンダーソンのアルバムでもエントリーした指揮者の竹本泰蔵氏はこのアルバムのMCで、自身もゲーム版を楽しんでいるといい、ファイナルファンタジーのストーリー展開も熟知した指揮者ならではの手腕が光る。②はMCもほぼノーカットで収録されている為、当日、東京国際フォーラムに集まった約5000名の満員の観衆の反応も窺えて興味深い。

■「Melodies of life」

(エントリーしたアルバム)
②「20020220ファイナルファンタジー オーケストラコンサート」(SQUARE ENIX国内盤)
③ピアノ・コレクション「ファイナルファンタジーIX」(SQUARE ENIX国内盤)


ファイナルファンタジーの第2の顔とも呼べる曲。植松氏のヒーリング・センスが発揮された楽曲で、②のライヴ盤の白鳥恵美子によるボーカル・ヴァージョンは、歌詞も哲学的で白鳥恵美子の透き通った美声と併せて深い感動に誘われる。この曲はオリコン初登場時、10位にランク入りしており、ゲーム音楽の垣根を取り払った名曲と実感させられる。
一方の③はピアノ盤。これがゲーム音楽(?)とも思える程の極上のアレンジで、ライナーノーツには楽譜も挿入されており、思わず弾きたくなる。ピアノはオランダ人で日本在住のルイ・レーリンクによるもの。ピアノ・アレンジはオケ・アレンジと同様、浜口史郎氏が担当。2000年リリースのアルバム。