画像

今回も冬の寒さに打ち勝てるホットな音源を。それは巨匠、ジョージ・セル(1897-1970)とクリーヴランド管弦楽団による1970年の只一度だけの来日公演でのシベリウスの交響曲第2番のライヴ音源(1970年5月22日、東京文化会館にて収録、ソニー国内盤、ジャケット画像:左上)。セルとクリーヴランド管弦楽団によるシベリウスのセッション録音は存在せず、一見するとセルのレパートリーとしては意外な組み合わせに感じるが、さかのぼること6年前の1964年に、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団とのセッション録音(1964年11月録音、コンセルトヘボウ、アムステルダムにて収録、DECCA海外盤、ジャケット画像:右上)は残されている。この来日公演の音源を聴くと、完璧主義で冷徹なセルのイメージはどこにもなく、ラファエル・クーベリッククラウス・テンシュテットと同様、ライヴで完全燃焼する熱い指揮者であったことが分かる。これまでセッション録音で聴けるクリーヴランド管弦楽団のサウンドは、どこかクールさを感じていたが、彼らの特長である透明感はそのままに、ライヴで聴かせる音がこんなに熱かったとは!と改めて感動してしまった。

シベリウスの交響曲第2番の醍醐味はなんといっても第4楽章。北欧に広がる森のような広大なスケール感が聴き所だが、ここはクリーヴランド管のボルテージもまさに最高潮に達している。トランペットをはじめとするブラスは雄叫びを、ストリングスもそれに応えるかのように起伏の大きな音の波を作り出している。
そして何より、セルのストーリーの描き方が実にドラマティック。この曲を完全に手中に納め、巧みな計算のもと、オケから100%以上の力を発揮しているのを感じる。これも日々の厳しい練習があってのものなのだろう。来日公演の約2ヵ月後に逝去したのが悔やまれてならないが、晩年の演奏とは思えないこの全身全霊のドキュメントはまさに後世に残る貴重な遺産といえるだろう。

もし、セル&クリーヴランド管弦楽団によるセッション録音が存在していたら・・・という、そのもしも、をオケ側が叶えてくれたのが、1984年に指揮者ヨエル・レヴィとレコーディングした音源(1984年4月録音、マソニック・オーディトリアム、クリーヴランドにて収録、TELARC海外盤、ジャケット画像:下)。ルーマニア出身の彼は1978年のブランソン国際指揮者コンクールで優勝。その後、ロリン・マゼールの元で副指揮者として修行を積み、1980年より常任指揮者に就任している。音源は当時ロリン・マゼールやクリストフ・フォン・ドホナーニとも行っていたテラークでの収録。スケール感や燃焼度はセルのライヴ盤には及ばないが、クリーヴランド管弦楽団の持ち味である透明感のある秀逸なサウンドはここでも活きている。1970年の伝説的名演から14年後の録音だが、おそらく当時共演したオケのメンバーもまた多くいたに違いない。セル時代に培われたサウンドの美学は、半世紀近く過ぎた現在もなお、クリーヴランド管弦楽団にDNAとして受け継がれていることだろう。

【ジョージ・セル関連ブログ】
モーツァルト:交響曲第41番「ジュピター」~欧州オケ編(ディスク10選)
モーツァルト:交響曲第41番「ジュピター」~米国オケ編(ディスク5選)
巨匠達が愛したヘンデルの名旋律~マッケラス、ボニング、セル他 ディスク4選

【シベリウス関連ブログ】
シベリウスの隠れた名曲「アンダンテ・フェスティーヴォ」~北欧オケを含むディスク3選
のだめ使用曲⑦シベリウス:交響詩「フィンランディア」~アシュケナージ、セーゲルスダム盤2選
チャイコ、シベリウス、ブラームス:ヴァイオリン協奏曲~ダヴィド/イーゴリ・オイストラフ親子の至芸
2種類のシベリウス「フィンランディア」~オーマンディによる合唱付きオケ版と男声合唱版
春の訪れを感じるマイフェイバリットシングス特集③~北欧の春?シベリウスの魅力~