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前回エントリーしたアディンセルの「ワルソー・コンチェルト」つながりで、ワルソー・コンチェルトの元ネタとなったラフマニノフのピアノ協奏曲第2番、3番を。ラフマニノフには4曲のピアノ協奏曲が存在するが、普段よく聴かれる人気曲は2番と3番。レコーディングでも、2番、続いて3番と両曲を録音するピアニストは多い。ブラジル出身の女流ピアニスト、クリスティーナ・オルティス(b.1950)もその一人。彼女の場合、レーベルをまたがっての録音というレアケースを実現させた。以下2枚のディスクをエントリーしたい。

■ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調
 クリスティーナ・オルティス(ピアノ)
 モーシェ・アツモン指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
 (1984年9月録音、ウォルサムストウ・アセンブリー・ホールにて収録、DECCA国内盤、ジャケット画像左)

■ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番ニ短調
 クリスティーナ・オルティス(ピアノ)
 イヴァン・フィッシャー指揮 フィルハーモニア管弦楽団
 (1990年4月録音、ヘンリー・ウッド・ホールにて収録、Collins海外盤、ジャケット画像右)


オルティスはデッカで1984年に第2番を録音。その6年後の1990年に英国Collinsレーベルで第3番をレコーディングを行っている。本来であれば、第2番を録音したデッカで第3番の録音も実現したいところだが、同時期の1984年9月に、デッカではヴラディミール・アシュケナージ&アムステルダム・コンセルヘボウ管弦楽団とのラフマニノフのピアノ協奏曲全集のレコーディングが開始されていた。第3番はデッカには既にボルヘ・ボレット盤(1982年録音)が存在していたこともあり、オルティスにとっては、前回エントリーした「ワルソー・コンチェルト」とカップリング曲として第2番しか録音できなかった、というデッカ側の企画意図やレコーディング事情がみてとれる。

さて、改めてオルティスの第2番を聴いてみると、全くもって素晴らしい。第1楽章冒頭から早めのテンポで開始され、勢いのある演奏を展開する。オルティスの情熱的なピアノタッチはラフマニノフ向きといえるし、ロイヤル・フィルの透明感のある伴奏も実に好演。デッカの臨場感のある優秀録音も名盤を印象づけている。

それだけに第3番のレコーディングも当初から期待されたに違いないが、結果として英国発のレーベルであるCollinsで実現したのは嬉しい。こちらもテンポ運びは全体に早めだが、難曲と感じさせずに聴かせてしまうあたり、オルティスが当時の女流ピアニストのトップをいく才能を持ったピアニストだったことを窺わせる。それだけに、もっと多くの人々に知られていい存在だが、デッカ以外は英国発のマイナー系レーベルでの音源が中心だったこともあり、日本では今一つ知名度がないのは惜しい限り。

第3番の伴奏はフィルハーモニア管弦楽団。指揮者は偶然にも上記の第3番のボルへ・ボレット盤(伴奏:ロンドン響)でもタクトをとったイヴァン・フィッシャー(b.1951)だった。同じ指揮者による伴奏でありながら、例えば第3楽章はボレット盤は15分47秒、オルティス盤は14分17秒と1分半近くも異なるので、ピアニストの持つテンポ感がいかに全体の演奏に色濃く反映するかという点でも興味深い。

現時点で67歳になるオルティスだが、当時30~40代にかけての録音で油の乗り始めた頃でもある。この2枚のラフマニノフのディスクは、彼女の素晴らしい音楽性を垣間見ることができる名盤だと思う。


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