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作曲家、すぎやまこういちさんの訃報に接する。享年90歳。自分にとっては少年時代からドラゴンクエストのゲーム音楽で親しんだ偉大な作曲家だった。ドラクエといえば、今年7月の東京オリンピックの開会式の選手入場のBGMとして使われたのが記憶に新しい。ドラクエファンでなくとも胸が高鳴っただろうし、ドラクエを含めたゲーム音楽が日本を代表する音楽の一つとしてセレクトされたことは自分自身嬉しかった。すぎやまさん本人も自分の音楽が多くの選手達を鼓舞したことをきっと喜んだに違いない。

本ブログでも過去にドラクエについていくつかエントリーしてきたので詳細はそちら(下段のリンク)に譲りたいが、追悼として、個人的に印象に残った思い出を振り返ってすぎやまさんを偲びたい。

一つ目はすぎやまこういちさん本人の姿に接した2009年の東京メトロポリタン・ブラス・クインテットの公演。東京都交響楽団とは2004年から一連のドラクエシリーズのアルバムを制作しているが、本公演では都響ブラス・セクションの5名のトップ・プレーヤーによるドラクエの金管五重奏の演奏に加え、このクインテットに触発されて作曲したという新曲オリジナルの金管五重奏曲を聴けたのは貴重だった。(いつか音源化を期待したい)すぎやまさんは司会役としてステージに出演、曲にまつわるレアなお話に会場が沸く熱気あふれる公演だったのが懐かしい。

二つ目は2017年にNHK交響楽団の生演奏で聴いたドラゴンクエスト。ドラゴンクエストといえばやはりN響の存在は欠かせない。N響による交響組曲「ドラゴンクエストIII~そして伝説へ…」のアルバムが発売された時、自分は中学生だったが、日本を代表するオーケストラがドラゴンクエストのゲーム音楽を奏でたことに大きなインパクトを受けた。言い換えれば、自分にとってはクラシックとゲーム音楽の境界線がなくなったといえるかもしれない。クラシックとゲーム音楽というのはあくまでジャンルであり、鳴っている音楽はどちらもオーケストラサウンド。ドラクエの音楽にはクラシックの要素が多分に含まれており、そのサウンドは少年時代の自分に充分な感動を与えてくれるものだった。
2017年のN響の実演では交響組曲「ドラゴンクエストV~天空の花嫁」から「序曲のマーチ」「王宮のトランペット」「愛の旋律」「戦火を交えて~不死身の敵に挑む」「結婚ワルツ」の5曲を堪能。それまでCDで聴いてきた演奏を実演で聴けたときの感動はやはり大きかった。

三つ目はすぎやまこういちさんが東京都交響楽団を指揮したドラゴンクエストのブルーレイアルバム(画像:ジャケット)。2013年に東京芸術劇場で行われた公演の貴重なライヴ映像で、プログラムは交響組曲「ドラゴンクエストV~天空の花嫁」が中心(アンコールでは「この道わが旅」や「そして伝説へ」も収録)となっており、曲間ですぎやまさんがMCをしながら進行。作曲家本人の指揮だけにドラクエファンと思しき若い人達が多く、すぎやまさんの人柄が出たMCや都響の演奏に熱心に聴き込んでいる様子が窺える。通常のオーケストラコンサートではこれだけ多くの若い人達がホールに詰めかけるのを見かけることは少なく、オーケストラの魅力を教えてくれた功績は大きい。自分自身がそうであったように、ドラクエをきっかけに、クラシックの魅力に誘われた人もいたことだろう。クラシック普及への貢献も計り知れないと思った。

本日視聴した「題名のない音楽会」では追悼として「すぎやまこういちさんの音楽会~そして伝説へ」という特集が組まれ、2010年・2011年に出演し、すぎやまさんが指揮(演奏:東京交響楽団、神奈川フィル)をした際の4曲の映像(「ドラクエI~序曲」、「すぎやまこういち・ヒットパレード」、「ドラクエII~この道わが旅」、「ドラクエIII~そして伝説へ」」がオンエアされた。その中で印象に残るすぎやまさんの言葉があった。

「僕はいろんな音楽の形態(の中)でオーケストラ音楽は子供の頃から大好きだし、音楽の一番のご馳走だと思ってます。ピッコロ、フロートから始まってコントラバスまで、もう色んな食材を使って作ったご馳走だと思っている。このオーケストラの楽しさを一人でも多くの方々に知っていただきたいという気持ちでやっています」

これを聞いた時、すぎやまさんが作曲家としてだけでなく、自身のSUGIレーベル立ち上げも含めたアルバム制作やコンサート活動においてすぎやまさん自らタクトをとったり、MCもこなすなど、高齢になってからも精力的に活動をされている理由がよく分かったような気がした。

また、ここで語られていた"オーケストラ音楽"という言葉は実に適語だと思った。それはクラシックやゲーム音楽、映画音楽のような業界上の分類ではなく、オーケストラで演奏される音楽がまさしく「オーケストラ音楽」。自分自身、クラシックもゲーム音楽も映画音楽もオーケストラで演奏される音楽に分け隔てなく親しんでいる者にとって、そこにジャンルという垣根はないと思っていたからだ。改めて良い言葉だなあと思った。

すぎやまこういちさんは伝説の人となったが、ドラゴンクエストの音楽と共にすぎやまさんの存在はこれからも多くの人々の心の中に生き続けていくし、クラシックと同じように演奏され、聴き継がれていくだろう。実際、交響曲と共に映画音楽がプログラミングされたコンサートを聴いたことがあるが、ドラゴンクエストのようなゲーム音楽が同じように演奏されても何の違和感もない。それはどちらも"オーケストラ音楽"だから。

少年時代、ドラゴンクエストを通じてオーケストラ音楽の魅力を教えてくれたすぎやまこういちさんに改めて感謝の気持ちを捧げたい。
ご冥福をお祈りいたします。


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