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会議で東京に来ていた大阪の同期と久々に会った。帰りに近くのニューヨーク風カフェレストランへ。ここではピアノの生演奏がBGMがわりに聴けて気に入っている店なのだが、そこで聴こえてきた美しいメロディーに思わず引き込まれてしまった。
演奏されていたのは北欧ジャズピアニストの第一人者、スウェーデン出身のラーシュ・ヤンソン(b.1951)のオリジナル、「More Human」という曲。彼こそ、自分にとって北欧ジャズにはまるきっかけとなったピアニストだった。

それにしてもBGMにラーシュ・ヤンソンを奏でるピアノ奏者の選曲センスが何よりシブイ!周りで何人の人がヤンソンのサウンドに気付いていただろうか…そんな事を思いながら同期とコーヒーを飲みながら会話を弾ませていた。その女性ピアノ奏者の無心に弾く姿が印象的だった。

ヤンソンのオリジナル曲にはどの曲も叙情性が感じられ、美しいメロディーに満たされている。彼が紡ぎ出すサウンドには、ジャズってこんなに美しい音楽なんだよ、と語りかけるような親しみやすさがある。と同時に、どこかはかなさも・・・。ビート感とリズム体が強調される事の多いアメリカン・ジャズとは対照的だ。

まずはラーシュ・ヤンソン自身の演奏によるピアノ・トリオ盤の「More Human」を聴く('91年2月録音、Imogenaレーベル、画像左)。彼のバラードを中心に選曲されたベスト盤「Ballads」からの一曲。直訳すると「より人間的な」という意味になるが、深夜に聴いていると自分と素直に向かいあえるような、そんなみずみずしさ溢れる名曲だと思う。そういや北欧音楽には、グリーグやシベリウスに代表される叙情性がジャズの世界にも根付いているように思える。それは北欧人の感性にも通じる所があるのだろう。
曲は彼自身のHPからも一部試聴が出来る。
http://www.lars.jp/cd-ballad.html

一方、ラーシュ・ヤンソンを敬愛してやまない日本のジャズ・ピアニスト、和泉宏隆氏(b.1958)による同曲のカバーも素晴らしい。和泉氏といえば、80~90年代のフュージョンブームの火付け役である「T-スクエア」の元名キーボーディストとして思い浮かべる人も多いだろう。幼い頃クラシック教育を受けて育った彼は、ジャズ・ピアニストになる夢を持ち続けていたようだ。全曲ピアノ・ソロで挑戦した4部作のアルバムの内の一枚「14 to 18 afternoon」('02年7~8月録音、FOREST MUSIC国内盤、画像右)で、彼のオリジナル曲と共に、ラーシュ・ヤンソンの「More Human」も収録。深遠で実に美しいジャズの世界を構築している。

二人のオリジナル作品に共通するのはメロディラインの美しさ。こういうジャズ曲にじっくり耳を傾ければ、人はもっと優しくなれるような気がする。