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夜空を見上げたら大きな満月が出ていた。きれいな月夜に何を聴こうか、と考えながら歩いていると、即座にドビュッシーの「月の光」が聴きたくなった。
以前からじっくり聴こうと思っていた編曲版がある。「月の光」のオーケストラ版。昨年11月に横浜みなとみらいホールで聴いた準・メルクル指揮&フランス国立リヨン管弦楽団の来日公演。このコンサートのアンコールで、最後に演奏されたのが「月の光」のオケ版だった。それはフレンチ料理のフルコースを堪能した後に出てくる美味のデザートのようで、「月の光」がこんなにも美しく心に染み入る曲だったなんて!と感動したのを覚えている。
今宵はこのオケ版に、新たに発見(?)した室内楽版も加えてあの夜の感動を再現してみたい。

[オーケストラ版]
○ジョン・ウィリアムズ指揮 ボストン・ポップス
 ('85年6月録音、シンフォニー・ホール、ボストンにて収録、
  フィリップス国内盤)


アルバム「ポップス・イン・ラヴ」からの一曲。編曲はムートン&ピストンによるもの。まるで映画の印象的なワンシーンに使われそうな「月の光」。いつもはブラスセクションと共に迫力あるサウンドを聴かせてくれるボストン・ポップスが、ストリングスセクションを中心に実に叙情的な旋律を聴かせてくれる。この曲の聴かせどころツボをうまく捉えたアプローチは、さすが、映画音楽の巨匠、ジョン・ウィリアムズならではだ。

○バーナード・ハーマン指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
 ('70年頃録音、DECCA国内盤)


CD初期盤の「決定版!クラシック名曲事典」なるアルバムに収録されていた一曲。
指揮者のバーナード・ハーマン(1911-1975)はヒッチコック作品の映画音楽で名を馳せたアメリカの作曲家。ジョン・ウィリアムズと同じニューヨーク出身である事や、ジュリアード音楽院を卒業しているあたり、共通点も多い。中学生の頃だっただろうか、ホルストの「惑星」を全曲聴いたのは、このハーマン&ロンドン・フィル盤が初めてだった。
編曲者は不明だが、中間部でヴァイオリン独奏が加わるあたり、上記のムートン&ピストンとは別の編曲版と思われる。全体的にジョン・ウィリアムズ盤よりさらに遅いテンポ。ジョン・ウィリアムズ盤の演奏時間が4分35秒なのに対し、バーナード・ハーマン盤は5分44秒と1分以上の差がある。しかしながら決して冗長にならないのは、同じ映画音楽業界の指揮者ならではか(^^)マーラーの交響曲題5番の有名なアダージェットのような天国的な美しさが漂うようだ。ジョン・ウィリアムズ盤とは違う味わいがあり、個人的には好きな演奏。

[室内楽版]
○アカデミー・オブ・ザ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
 ・チェンバー・アンサンブル
 ('92年9月録音、スネイプ・モールティンティングス・コンサート・ホール
  にて収録、CHANDOS輸入盤)


アルバム「アカデミー・クラシックス」からの一曲。実に長い団体名(!)だが、指揮者のネヴィル・マリナーが通常のオケに近い編成で活動するときの通称“アカデミー室内管弦楽団”(=アカデミー・オブ・ザ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ)と、指揮者を置かないときの小編成での室内楽と、団体名を分けているようだ。
「月の光」に室内楽版が存在する事にも驚き!ここではMalcolm Latchemによる、弦楽9重奏での編曲。小編成だけあって、オリジナル版のピアノに近い静寂さを味わえる演奏となっている。アカデミーのメンバーの緻密なストリングスセクションのレベルを実感できる曲だ。