(上が'07年発売の紙ジャケ盤、下が「新ワルター全集」盤)
名演奏をいい音で聴きたい。これはリスナー永遠のテーマだ。
自分を含むワルターファンには待ち遠しかったコロンビア交響楽団(一部ニューヨーク・フィル)の「ジョン・マックルーア監修CDマスター使用」盤(ソニー・クラシカル)が最近10枚シリーズで発売された。何でもブルーノ・ワルター没後45年特別企画だという。
CD初期盤以降、これまでも、ソニーは「High Clear Digital」や「SBM」「DSD」等の最新技術の投入による精度の向上という名の下に、ワルターの名盤を幾度となく再発させてきたが、そんな名盤は聴くも無残な音に変貌していきつつあったように思う。
その頃のベートーヴェンの「田園」を購入した事があるが、ストリングスが金属的に響きすぎ、とても納得できるものではなかった。オリジナルマスターに少しでも近づいた音を聴かせてほしい、と思ったのはファンの本音だろう。
'83年の初CD化にあたってのCD初期盤で、初めて監修を行ったのが録音当時のプロデューサー、ジョン・マックルーア。その初期盤以降、ようやく'07年になって、原点回帰した音がここに登場したという事になる。おまけに「完全生産限定版」という記載や「紙ジャケット」仕様でファンの心をくすぶろうという戦略。さすがソニーはマーケティングがうまい。
ジョン・マックルーア監修のCD初期盤のものは自分も既に大部分を所有していたが、「完全生産限定版」「紙ジャケット」につられて購入・・・。ああ、こういう宣伝文句に弱い自分・・・。その中にはギュンター・ヴァントでエントリーした思い出のシューベルトの交響曲第5番&「未完成」も含まれていた。
'07年に蘇るマックルーアのマスター音質はどんなものだろう?そんな期待もあって、シューベルトの交響曲第5番&「未完成」を、これまで所有していた「新ワルター大全集」の初期盤('88年頃発売)と聴き比べてみる。
「未完成」の冒頭。クラリネットの音を比較してみた。初期盤では立体的に響いていたクラリネットの音が'07年盤ではやや平面的に響く。その直後のストリングスによるフォルテの部分も初期盤での艶やかさがここでは感じられない。それは「交響曲第5番」でのコロンビア響のストリングスの音も同様だった。
少なくともシューベルトの交響曲第5番&「未完成」に関しては臨場感や解像度という点において、初期盤を凌駕できていないように思った。見方を変えれば、同じプロデューサー監修によるマスター使用で、最新盤と昔の初期盤を比較した場合、最新盤が上回るとは一概に言えないということだ。(スーパーオーディオCD等、ハード仕様が異なる場合を除く)
これは考えてみたらある意味当然の事かもしれない。レコーディング時からマスターテープの使用年数が遠ざかるほど保存に伴う劣化も生じるわけで、その当時のCD化の鮮度にも反映されるからだ。もちろん、マスターテープ毎に劣化状況は違うため、すべて最新盤が劣るという事ではない事を注釈しておきたい。
しまった・・・ソニーのしたたかな(?)マーケティング戦略に乗ってしまった。でも悪くは思わない。このシリーズによって、ワルターファンが一人でも増えるなら本望だ。だが、実際は自分も含む買い換え層、及び買い増し層が大半を占めているようにも思う(^^;
紙ジャケ盤と初期盤を比較する楽しみがまた一つ増えたと思えばいいではないか(と言って自分を納得させている)。
いい事もあった。「新ワルター全集」には曖昧な記載となっていた録音日時と会場名が'07年盤にははっきりと記載されている。録音に関するデータを記載するのはレコード会社としての基本マナーだと思う。
初期盤は安易に手放さない方がいい、という事を学んだ一日だった(^^;