前回の米国オケ編に引き続き、今度は欧州オケ編を(^^)
今回の「ロメオとジュリエット」(通称」ロメジュリ)のエントリーにあたり、一度実演に接したことがあったのを思い出した。博多に赴任の折に聴いたアレクサンドル・ドミトリエフ指揮 サンクトペテルブルク交響楽団の来日公演(2000年11月26日 アクロス福岡シンフォニーホール)。オールチャイコフスキープログラムで、オープニングはロメジュリ、メインが交響曲第6番「悲愴」だった。本場ロシアオケによるチャイコフスキーは期待以上のもので、彼らの演奏からは、お国ものへの誇りが感じられ、ロシアオケならではの豪快なサウンドが生で聴けたのも感動だった。
今回は欧州のオケが演奏した3つディスクを取り上げたい。(ジャケット画像:左上より時計回り)
○ネーメ・ヤルヴィ指揮 エーテボリ交響楽団
(2003年8月23日録音、エーテボリ・コンサート・ホールにて収録、BIS輸入盤)
世界フィギュア2008の会場、地元エーテボリのオーケストラによる演奏。ヤルヴィがエーテボリ響と進めているチャイコフスキーチクルスの第2作目にあたるアルバム。
先日エントリーしたハチャトゥリアンを始め、ロシア物を得意としているヤルヴィだけに、期待を持って購入した一枚。洗練された現代的な演奏で、聴かせ所のシーンでは、スコティッシュ・ナショナル管弦楽団の就任時代と同様、ヤルヴィならではのストレートなアプローチでの棒さばきが光る。ただ、スコティッシュ・ナショナル管弦楽団ならではの豪快なサウンドにまでは、達し切れていない感は残った。ここは英国と北欧というオケのカラーの違いもあるのだろう。
SACD層もあるハイブリッド仕様で、BISの高品位録音がアコースティックな残響をうまく捉えている。
○ピエール・モントゥー指揮 ロンドン交響楽団
(1963年5月31日、コンツェルトハウス大ホール、ウィーンにて収録、
ANDANTE輸入盤)
1960年にロンドン響の首席指揮者に就任したモントゥー(b.1875-1964)がウィーン音楽祭で振った際の貴重なライヴ。ロンドン響創立100周年記念セット(4枚組)に収録された一曲だが、オリジナルはヴァンガードクラシックスの音源によるもの。ライヴではこのロメジュリと合わせ、「ピアノ協奏曲第1番」、「交響曲第5番」が一緒に演奏されたオールチャイコフスキープログラムだったようだ。
モントゥーが、翌年の6月に亡くなる前年の録音であるが、当時88歳という高齢を感じさせない洗練された演奏。
ウィーンのホールに豊潤に鳴り響くロンドン響のストリングスが、シチューのようなこってりとした味わいがあって美しい。後半部のロメジュリのテーマのクライマックスシーンではアッチェレランドをかけたり、ブラスセクションを強奏させる事でドラマ感が一層際立っており、モントゥーのならではの味付けには好感を覚える。数あるロメジュリのディスクの中で、美演といえる録音だと思う。
今から45年も前となる音源でありながら、古くささは全く感じない、実に鮮明な録音。当時の録音技術の高さを窺わせる。
○ジェフリー・サイモン指揮 ロンドン交響楽団
(1981年1月録音、オール・セインツ教会、ロンドンにて収録、
CHANDOS輸入盤)
ロメジュリ初稿版の使用というレア録音。チャイコフスキーは交響曲第1番と第2番の作曲時期の合間にあたる1869年にこの曲を書き上げているのだが、その後本人によって手が加えられ、1880年に現在演奏される形となっている。このサイモン盤は、その1869年に作曲された当時の初稿版。プレミア・レコーディングにこだわるサイモンらしい取り組みだ(^^)
一聴して、現在演奏される曲とは全く違う版となっている事に、まずびっくりさせられてしまう。
冒頭部分、ローレンス僧の主題はなく、実に平和でのどかな雰囲気の旋律でスタートする。一瞬曲を聴き間違えたか?と思ってしまった。その後、ロメジュリのテーマは出てくるものの、唐突に出現するあたり、どことなくせわしない印象だ。ローレンス僧の主題がないので、当然のごとく中間部のトランペットも現在と違ったフレーズになっている。
後半部、クライマックスともいえるロメジュリのテーマは再現されるものの、エンディングは唐突に終わる等、何となく消化不良な感じ。
改めて今回聴いてみて、オーケストレーションだけでなく、内容的にも物足りなさが残ったこの初稿版を、後年作曲者自身が改訂に踏み切った理由が分かる気がした。
ちなみに初稿版の約11年後に改訂された頃は、交響曲第4番を含む、後期3大交響曲に取り組む時期であった事もあり、現在演奏されている版が作曲者の最も油の乗り切った頃のオーケストレーションに進化を遂げていることが、改めて認識できて興味深い。
なお、ここでのロンドン響は、いつもとは違うスコアに慣れていない影響もあるのだろう、やや鈍い反応。レベルの高いオケだけに、メンバーも消化不良な感が残ったのではなかっただろうか(^^;