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バーンスタインといえばやはりあの名曲、「ウエスト・サイド・ストーリー」を取り上げない訳にはいかない。バーンスタイン作品の中でおそらく最も知名度の高い曲であるばかりか、20世紀に生まれたクラシック曲の中でも最高傑作の一つだろう。そして自分にとっても忘れられない思い出の曲。高校2年時の吹奏楽部の定期演奏会、第2部のポピュラーステージのメインで取り上げた曲がこの曲だった。様々なヴァージョンによる演奏が存在するが、この機会にそれぞれ分類をして取り上げてみたい。

①「シンフォニック・ダンス」

バーンスタイン自身が'60年にコンサートピース用に“編作”(メドレー風に本編の曲を並べ替え、オーケストレーションにも手を加えているという意味で“編作”と呼んだ)したヴァージョンを「シンフォニック・ダンス」という。ストーリー順ではない9つのシーンがセレクションされており、曲は以下の通り。特にトランペットセクションが存分に活躍するこの曲は「マンボ」や「クール」の(ハイトーンが連発するという意味での)テクニカル面及び(ジャズ・フィーリングが試されるという意味での)パフォーマンス面が一つの決め手となっている。オケがどこかまで“Jazzy”になり切れるか、その辺りの聴き所にも注目したい。
(画像:ジャケット左上より時計回り)

プロローグ (Prolog) ~サムホエア (Somewhere) ~スケルツォ (Scherzo) ~マンボ (Mambo) ~チャチャ (Cha-Cha) ~出会いの場面 (Meeting Scene) ~クール (Cool) とフーガ (Fugue)~ ランブル (Rumble) ~フィナーレ (Finale)

【米国オケ編】
○レナード・バーンスタイン指揮 ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団
 ('82年7月録音、デイヴィス・シンフォニーホール、サンフランシスコ
  にて収録、ドイツグラモフォン輸入盤)


高校時代から長年愛聴してきた自分にとってのスタンダード盤。先の「キャンディード序曲」同様、'82年7月のサンフランシスコにおける一連のライブ録音で、ライヴならではの燃焼度の高さ、完成度の高さにおいて、作曲者本人の思いがタクトを通じて伝わってくる名演。「プロローグ」冒頭から高いテンション。最初の一音から聴き手に高揚感が伝わってくる。
聴き所の「マンボ」、「クール」はジャズ・トランペッターもびっくりの見事なハイパフォーマンス。「マンボ」後半のソロは首席奏者のトーマス・スティーヴンスのプレイも加わっていると思われるが、高校時代、この名盤を聴きながら練習したものだった。ライヴではバーンスタインが指揮台を飛び跳ねるノリノリのパフォーマンスもきっと拝めたに違いない(^^)ロス・フィルとはもっと多くの録音を残してほしかった・・・。

○小澤征爾指揮 サンフランシスコ交響楽団
 ('72年6月録音、カリフォルニアにて収録、ドイツグラモフォン国内盤)


バーンスタインにとって最初の日本人の愛弟子、小澤征爾によるもの。'70~'76年まで、サンフランシスコ響の音楽監督として就任していた時代のもので(任期途中の'73年にはボストン響の音楽監督にも就任)、このコンビによる録音は多くないだけに貴重なもの。
当時「シンフォニック・ダンス」の録音は、'60年代に録音されたバーンスタイン&ニューヨーク・フィル程度(CBS)しかなかっただけに、'80年代のロス・フィル盤に再録盤が現れるまでは、ドイツグラモフォンにとっても貴重なディスコグラフィーだったに違いない。アメリカ作品に果敢に取り組んだ当時の小澤氏の意気込みに感心する。
演奏は師匠、バーンスタインの影響を多分に受けたアプローチ。ロス・フィルと同様、開放的なサウンドも功を奏している。ただ、「マンボ」でシャウトが入ってないのが残念!

○エド・デ・ワールト指揮 ミネソタ管弦楽団
 ('90年5月録音、オーケストラホール、ミネアポリスにて収録、
  ヴァージン・クラシックス輸入盤)


'86年から'95年まで約10年に渡り首席指揮者に就任していたエド・デ・ワールト&ミネソタ管による演奏。エド・デ・ワールト自身も'64年の国際ディミトリー・ミトロプーロス指揮コンクールで優勝した際、ニューヨーク・フィルでレナード・バーンスタインの助手を1年間務めるという、意外な(?)接点がある。当時の'60年代といえばバーンタイン&ニューヨーク・フィル共に黄金期を築き上げていた時代だ。録音の'90年といえば、この年の10月にバーンスタインが亡くなっているのも何かの縁だろうか。
肝心の演奏は、意外にも(?)おとなしいもの。オケはアメリカのオケ、テクニカル面は十分なものを持っているが、今ひとつ勢いを感じないし、乗れていない。「マンボ」ではシャウトがないのも残念。全体的にただ流れてしまっているだけの感が残る。ここは指揮者の手腕にもよる部分だろう。例えばここでレナード・スラトキンのようなアメリカ人指揮者が振っていたらまた違った印象になっていたような気がする。

【英国オケ編】
○カール・デイヴィス指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
 ('96年録音、ワトフォード・コロシアムにて収録、輸入盤)


「マンボ」、「クール」共に最高得点を付けてしまいたくなる超名演!まず、「マンボ」を2分11秒という快速なテンポで乗り切ったのはこのカール・デイヴィス&ロイヤル・フィル盤位だろう(本家バーンスタイン&ロス・フィル盤の2分21秒を10秒上回る)。「マンボ」冒頭からトランペットが通常よりオクターブ高いハイトーンでスタートするあたりもシビれてしまう(^^)パーカッション(特にドラム)の扱いも実に効果的。何より、熱狂的と呼ぶにふさわしいノリだ。
「クール」ではサックスの巧さも光る。トランペットセクションのシェイクの掛け方においてもバーンスタイン&ロス・フィル盤を上回るポイント。何より、Jazzyなノリに惹かれてしまう。
実際、クラシックだけでなく、ポップスやフュージョン等、クロスオーバーなアルバムにおいても評価の高いロイヤル・フィルの高い技術力と柔軟性、そして指揮者カール・デイヴィスの手腕による部分が大きいのだろう。こんな実演を聴いてしまったら興奮でしばらく声が出なくなりそうだ(^^)

○パーヴォ・ヤルヴィ指揮 バーミンガム市交響楽団
 ('97年6月8~10日録音、シンフォニーホール、バーミンガムにて収録、
  ヴァージン・クラシックス国内盤)


ネーメ・ヤルヴィの長男で、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのパーヴォ・ヤルヴィと、サイモン・ラトルの古巣、バーミンガム市交響楽団によるバーンスタイン・アルバムからの一曲。彼自身、'80年にアメリカに渡り、ジュリアード音楽院とカーティス音楽院で学んでおり、その頃バーンスタインより指導も受けている事から、バーンスタインへのオマージュという意味合いも込めているのだろう。実際、ヴァージン・クラシックス側としては、バーンスタインの生誕80周年記念を意図したアルバムのようだ。
「マンボ」冒頭の打楽器から実に威勢がいい。“マンボ!”のシャウトでは別撮り(?)と思うほど、オンマイクで声が揃って聞こえるのが面白い(^^)
トランペットセクションの活躍も目立ち、「マンボ」においてはハイトーンが裏返るシーンも。また「クール」においてはシェイクを長めにかけ、ジャジーな雰囲気をたっぷりと醸し出している。元々、父親のネーメは金管楽器の扱い方やテンションのかけ方にかけては一流だけあって、ここでの金管の処理の仕方は父親譲りなのだろう。