1876年9月15日、ベルリンで生まれ、1962年2月18日、ビバリーヒルズでこの世を去った名指揮者、ブルーノ・ワルター。彼との出会いは、僕が中学1年の頃にさかのぼる。
そもそも僕がワルターと出会ったのは偶然的なものだった。その頃、僕はCBSソニーが売り出していた「音のカタログ」(画像中:冊子の表紙、画像下:冊子の中身より)という、カセットを通信販売によって手に入れていた。約100曲が約40秒ごとに紹介され、あまりクラシックの名曲をまだたくさん知らない僕にとってはたいへんうれしいものだった。その中で僕がひときわ気に入ったものがあった。ブラームスの「交響曲第1番」。第4楽章の、あの有名な主題のところだったが、「第9」を思わせる堂々とした旋律は、僕を感動させた。
その当時、ちょうどCDプレーヤーを買ったばかりの僕は、さっそくレンタル店に直行した(同じ曲を借りるためである)。その曲の演奏はジョージ・セルのクリーブランド管だったが、できるなら同じものがほしかった。しかし、探してみたが、どうも同じ演奏は見当たらなかった。しょうがなく僕は近くにあった別のブラームス第1番を借りることになった。ジャケットの裏を見ると、「ブルーノ・ワルター指揮・コロンビア交響楽団」と書いてある。全然、聞きなれない名前だ、さぞかしへたな指揮にへたな演奏だろうと、少々がっくりしながら家に帰った。
さっそく聞いてみることにした。まず第1楽章から。PLAYボタンをおした。と、その瞬間、僕は驚嘆した。圧倒されてしまった。重厚で分厚い弦が強靭に、しかし、その中には老いた悲哀の様なものが含まれていて、その旋律が次々と流れていった。僕はもう一度CDのジャケットを見直した。
ブルーノ・ワルター指揮・コロンビア交響楽団、すばらしい演奏だと感じたのと同時に、すばらしい曲だと思った。そして第4楽章の主題の部分。セルのような力みはなかったが、その中にはやはり過去をふりかえるような感じの悲哀なものが感じられた。ブルーノ・ワルター、ただものの指揮者ではないな、とその時僕は感じた。そしてこの指揮者のことをもっと知りたく思った。
これが僕とワルターの初めての出会いだったのである。~第一部終わり~