以前、エントリーしたトウキョウ・ブラス・シンフォニーの第2弾となる最新ディスク「Brass Symphony -偉大なる作曲家-」(ジャケット画像:左)が発売された。
注目は、名門、フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル(以下、P.J.B.E.と表記)が、デッカ・レーベルへのラストレコーディングに残したアルバム「ヨーロッパの宮廷音楽(原題:Music for the courts of Europe)」(ジャケット画像:右)の収録曲の一つで、バッハの「ブラスのための組曲」が収録されている点。この曲と、同アルバムに収録された「ブランデンブルク協奏曲第3番」(こちらも以前、エントリーしていた)は、ある意味、P.J.B.E.としての活動の集大成ともいえる曲だった。「ブラスのための組曲」は、バッハの主要な器楽曲である「フランス組曲」や「イギリス組曲」の中から編まれた曲で、詳細は以下の通り。
バッハ(編曲:クリストファー・モワット):ブラスのための組曲
①プレリュード(原曲:イギリス組曲第3番)
②アルマンド(原曲:フランス組曲第4番)
③ガヴォット(原曲:フランス組曲第5番)
④サラバンド(原曲:イギリス組曲第6番)
⑤ジーグ(原曲:フランス組曲第5番)
■トウキョウ・ブラス・シンフォニー盤
(2010年8月録音、秋川キララホールにて収録、CRYSTON国内盤)
メンバー(所属オケ)
【トランペット】
井川明彦(N響)、栃本浩規(N響)、服部孝也(新日フィル首席)、中山隆崇(都響)、杉木淳一郎(新日フィル)
【トロンボーン】
吉川武典(N響)、桑田晃(読響首席)、岸良開城(日本フィル副首席)、門脇賀智志(新日本フィル)
【ホルン】
今井仁志(N響)
【チューバ】
池田幸広(N響)
■フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル盤
(1986年4月録音、ST. BARNABAS CHURCHにて収録、DECCA国内盤)
【トランペット】
フィリップ・ジョーンズ、ロッド・フランクス、ナイジェル・ゴム、ジョセフ・アトキンス
【トロンボーン】
ロジャー・ハーヴェイ
クリストファー・モワット
デイヴィッド・パーサー
デイヴィッド・スチュアート
【ホルン】
フランク・ロイド
【チューバ】
ジョン・フレッチャー
編曲はP.J.B.E.メンバーで、後にロンドン・ブラスにも在籍したトロンボーン奏者のクリストファー・モワットが担当。元々、これがオリジナルの組曲と思わせてしまう程、編曲作品としての完成度は高い。
難易度も高いこの曲を、今回、トウキョウ・ブラス・シンフォニーが取り組んだ意欲と、金管アンサンブルとしての技術力の高さは、日本が世界に誇れるものだと実感できた。N響や都響等、国内の一流のオケから成った団体だけの事はある。
一方で、今回、本家P.J.B.E.盤とも改めて聴き比べをしてみた。トウキョウ・ブラス・シンフォニーの到達点より、遥か先にP.J.B.E.の到達点が存在するのを感じたのも、また事実だった。それは、個々人の技量という枠を超えた、アンサンブルとしての精度の高さから生まれる音楽表現の違い、とでもいうべきだろうか。音色、音量、旋律、ブレスコントロールのいずれもが、見事なまでに統一されているのは、長年、互いに活動しているメンバー同士だからこそ、成しえる技でもあるのだろう。「アルマンド」の歌わせ方の素晴らしさについては、以前、イングリット・へブラーのピアノ盤をエントリーした際に、コメントをした記憶がある。また、「ジーグ」は、まさに、アンサンブルの妙とでもいうべきもので、この組曲の最大の聴き所。彼らはさらりと吹きこなしているが、トウキョウ・ブラス・シンフォニー盤で聴くと、その難易度の高さが実感できる。
両団体とも、まぎれもなく「金管アンサンブル」なのだが、P.J.B.E.には、金管楽器で演奏されている事すらも忘れ、まるで弦楽カルテットを聴いているかのような濃密な一体感が漂っている。それは、トウキョウ・ブラス・シンフォニーが目指していく方向性でもあるのだろう。
なお、CRYSTONレーベルは、いつもながらの高品位録音が嬉しいが、唯一惜しいのは、チューバがオンマイク気味で、ベースラインが目立ち過ぎる点。これはP.J.B.E.盤と聴き比べても、違いを感じる点だった。フィリップ・ジョーンズの様に、専属のリーダーが存在したP.J.B.E.と異なり、日々、オケマンとして活動する彼らが、金管アンサンブルの活動を一方で行うのは、並大抵ではないと思うが、日本を代表する金管アンサンブル団体として、トウキョウ・ブラス・シンフォニーの今後の更なる活躍に期待したい。