以前、ファリャのアルバムでもエントリーした注目の指揮者、パブロ・エラス=カサドが2019年12月11日にNHK交響楽団に客演した映像をクラシック音楽館で観た。メインプログラムのチャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」はこの交響曲に新風を吹き込んでおり、改めてこの楽曲の魅力を教えてくれた。チャイコフスキーの交響曲といえば、一般的に第4番~6番がメジャーだが、彼自身、インタビューで1866年に作曲された最初の交響曲を「傑作」と位置付けており、「チャイコフスキーの発想力がよく分かる」「非常にうまく絶妙に構成されている」と絶賛。本番では、歯切れのよいリズムとテンポ感に加え、指揮棒を持たない暗譜での指揮姿にも好印象を持った。
神秘的に始まる1楽章の冒頭はどこかベルリオーズの「幻想交響曲」(1830年作品)の第一楽章を感じさせる。オーボエからチェロ、チェロからホルンへとどこか哀愁を感じさせる旋律が受け継がれる2楽章は聴き所の一つ。特にホルンが登場するシーンではどこか1876年に作曲された「白鳥の湖」と通ずるものがある。実際、この楽章は当時、湖を訪れた際の印象を書き留めたものといわれているが、「湖」という点が共通している。
一方、3楽章は終楽章に向けた序奏的な位置付けのように写るが、後半のチェロが美しさをのぞかせる。そして4楽章はもう一つの聴き所。交響曲第4~6番につながるチャイコフスキーらしい、シンフォニックなサウンドがぎゅっと凝縮されている。特にクライマックスに向けて盛り上がるコーダではトランペットがファンファーレ風の旋律を奏でるあたりは、どこかドボルザークの交響曲第8番(1889年作品)の4楽章との接点も感じるから面白い。
今回の放送を機に、こだクラで所有する4つの音源の感想を綴っておきたい。
■マイケル・ティルソン・トーマス指揮 ボストン交響楽団
(1970年3月録音、シンフォニーホール、ボストンにて収録、グラモフォン&タワーレコード国内盤、ジャケット画像左上)
当時まだ26歳だったティルソン・トーマスの出世作(ちなみに作曲当時のチャイコフスキーも26歳!)ともいうべき音源で、今回エントリーした4つの音源でのマイベスト盤。1970年に入ったばかりの時期ながら、会場のシンフォニーホールの残響豊かな響きをよく捉えた録音。また、録音とこの曲の雰囲気が実にマッチしており、老舗のグラモフォンらしい特質がよく出ている。聴き所の2楽章は冒頭のオーボエのしっとりとした佇まいから、ホルンまでドラマティックな楽章に仕上がっているし、4楽章のコーダでの盛り上げ方(特にトランペットの処理!)も巧い。当時のボストン響のふくよかな響きが堪能できる。
■ズービン・メータ指揮 ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団
(1977年8月録音、ロイズ・ホール、カリフォルニアにて収録、デッカ海外盤、ジャケット画像右上)
1976-77年にかけて録音されたメータ&ロサンゼルス・フィルによる交響曲全集の中の音源。全体的に見通しの良い演奏で、ティルソン・トーマス&ボストン響のようなしっとりとした路線ではなく、開放的な響きがする。楽器もよく鳴っており、特に当時在籍していたトランペットの首席トーマス・スティーヴンスのストレートに伸びる音色は聴いていて心地が良い。録音はもう少しホールの残響を求めたかった。
■クラウディオ・アバド指揮 シカゴ交響楽団
(1991年3月録音、オーケストラ・ホール、シカゴにて収録、ソニー国内盤、ジャケット画像右下)
こちらは1984-91年にかけて録音されたアバド&シカゴ響による交響曲全集の中の音源。旋律の歌わせ方や盛り上げ方はさすがアバドで、彼ならではの手腕を感じさせる。録音が今ひとつなのが惜しく、2楽章のレイ・スティルと思われるオーボエ・ソロもやや痩せた感じがした。とはいえ、デイル・クレヴェンジャーを含むホルンセクションや、4楽章でのアドルフ・ハーセスを含むトランペットセクションのブラスの咆哮はここでも健在。
■ネーメ・ヤルヴィ指揮 エーテボリ交響楽団
(2002年6月録音、エーテボリ・コンサート・ホールにて収録、BIS海外盤、ジャケット画像左下)
こちらも2000年代に録音されたネーメ・ヤルヴィ&エーテボリ響による交響曲全集の中の音源。今回エントリーしたディスクの中では最も中庸的な演奏。かつてCHANDOSレーベルでスコティッシュ・ナショナル管弦楽団で数多くの録音を行ったアルバムに共通していた豪快さや勢いといったものはここでは感じられない。録音当時65歳となったヤルヴィの年齢や、北欧オケと英国オケとのサウンドカラーの違いもあるのかもしれない。
【こだクラ過去ブログ/チャイコフスキーの交響曲】
■ジョン・ウィリアムズの「スター・ウォーズ」組曲とチャイコフスキーの交響曲第5番の共通点~実演とディスク2選
■小曽根真も登場!アラン・ギルバート&ニューヨーク・フィル来日公演(2月15日横浜みなとみらいホール)
■これぞロシア!テミルカーノフ&サンクトペテルブルグ・フィル来日公演(11月12日文京シビックホール)
■チャイコフスキー:交響曲第5番~ショルティと名門オケ(シカゴ響・ロンドン響)によるディスク3選
神秘的に始まる1楽章の冒頭はどこかベルリオーズの「幻想交響曲」(1830年作品)の第一楽章を感じさせる。オーボエからチェロ、チェロからホルンへとどこか哀愁を感じさせる旋律が受け継がれる2楽章は聴き所の一つ。特にホルンが登場するシーンではどこか1876年に作曲された「白鳥の湖」と通ずるものがある。実際、この楽章は当時、湖を訪れた際の印象を書き留めたものといわれているが、「湖」という点が共通している。
一方、3楽章は終楽章に向けた序奏的な位置付けのように写るが、後半のチェロが美しさをのぞかせる。そして4楽章はもう一つの聴き所。交響曲第4~6番につながるチャイコフスキーらしい、シンフォニックなサウンドがぎゅっと凝縮されている。特にクライマックスに向けて盛り上がるコーダではトランペットがファンファーレ風の旋律を奏でるあたりは、どこかドボルザークの交響曲第8番(1889年作品)の4楽章との接点も感じるから面白い。
今回の放送を機に、こだクラで所有する4つの音源の感想を綴っておきたい。
■マイケル・ティルソン・トーマス指揮 ボストン交響楽団
(1970年3月録音、シンフォニーホール、ボストンにて収録、グラモフォン&タワーレコード国内盤、ジャケット画像左上)
当時まだ26歳だったティルソン・トーマスの出世作(ちなみに作曲当時のチャイコフスキーも26歳!)ともいうべき音源で、今回エントリーした4つの音源でのマイベスト盤。1970年に入ったばかりの時期ながら、会場のシンフォニーホールの残響豊かな響きをよく捉えた録音。また、録音とこの曲の雰囲気が実にマッチしており、老舗のグラモフォンらしい特質がよく出ている。聴き所の2楽章は冒頭のオーボエのしっとりとした佇まいから、ホルンまでドラマティックな楽章に仕上がっているし、4楽章のコーダでの盛り上げ方(特にトランペットの処理!)も巧い。当時のボストン響のふくよかな響きが堪能できる。
■ズービン・メータ指揮 ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団
(1977年8月録音、ロイズ・ホール、カリフォルニアにて収録、デッカ海外盤、ジャケット画像右上)
1976-77年にかけて録音されたメータ&ロサンゼルス・フィルによる交響曲全集の中の音源。全体的に見通しの良い演奏で、ティルソン・トーマス&ボストン響のようなしっとりとした路線ではなく、開放的な響きがする。楽器もよく鳴っており、特に当時在籍していたトランペットの首席トーマス・スティーヴンスのストレートに伸びる音色は聴いていて心地が良い。録音はもう少しホールの残響を求めたかった。
■クラウディオ・アバド指揮 シカゴ交響楽団
(1991年3月録音、オーケストラ・ホール、シカゴにて収録、ソニー国内盤、ジャケット画像右下)
こちらは1984-91年にかけて録音されたアバド&シカゴ響による交響曲全集の中の音源。旋律の歌わせ方や盛り上げ方はさすがアバドで、彼ならではの手腕を感じさせる。録音が今ひとつなのが惜しく、2楽章のレイ・スティルと思われるオーボエ・ソロもやや痩せた感じがした。とはいえ、デイル・クレヴェンジャーを含むホルンセクションや、4楽章でのアドルフ・ハーセスを含むトランペットセクションのブラスの咆哮はここでも健在。
■ネーメ・ヤルヴィ指揮 エーテボリ交響楽団
(2002年6月録音、エーテボリ・コンサート・ホールにて収録、BIS海外盤、ジャケット画像左下)
こちらも2000年代に録音されたネーメ・ヤルヴィ&エーテボリ響による交響曲全集の中の音源。今回エントリーしたディスクの中では最も中庸的な演奏。かつてCHANDOSレーベルでスコティッシュ・ナショナル管弦楽団で数多くの録音を行ったアルバムに共通していた豪快さや勢いといったものはここでは感じられない。録音当時65歳となったヤルヴィの年齢や、北欧オケと英国オケとのサウンドカラーの違いもあるのかもしれない。
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