意識しているわけではないのだが、最近は木管系のサウンドをよく聴いている。管楽器特有のふくよかさが夏にもぴったりくるだからだろうか。そういや、管楽器は英語で「Wind Instruments」」と表記する。実際は「Wind」=「息を吹き込む楽器」からこの単語が使われていると思うのだが、管楽器の集合体である吹奏楽(Wind Orchestra)もふわっとした爽やかさが涼風を呼んでくれるようで心地よいサウンドだ。
今宵は「のだめカンカービレ」で一躍有名になったベートーヴェンの「交響曲第7番」の管楽アンサンブル版を。正式には「ハルモニー」音楽というものらしく、この18世紀初めに存在した3~5の木管楽器と2本のホルンの為の合奏曲(19世紀初にはコントラファゴットやコントラバスも加わる)の事を指すらしい。
このディスクに出会うまではシンフォニックなベートーヴェンの交響曲に管楽アンサンブル版が存在するなんてもちろん知らなかった。しかしこれは先日エントリーした「ゴールドベルク変奏曲」の木管編成版とは違い、正真正銘、ベートーヴェン自身による編曲。オケ版は1812年に完成しているが、この管楽アンサンブル版は1816年に出版されている。今の時代からすれば驚きだが、オケによる生演奏の回数が少なかった当時は、小編成でも演奏可能な編曲版は出版社の新曲プロモーションとしても一役買っていたのだろう。
演奏はウィーン管楽協会アンサンブル('92年1~2月録音、ウィーンにて収録、キャニオン・クラシックス国内盤)。メンバーの多くはウィーン・フィルのメンバーから成っている。クラリネットには名手ペーター・シュミードルが参加。オーボエ×2、クラリネット×2、ファゴット×2、ホルン×2、コントラファゴット×1、コントラバス×1の計10名での編成。
ベートーヴェンの「交響曲第7番」は管楽アンサンブルにもぴったりな曲だと思う。有名な2楽章のアレグレットはまさにこの編成の為に書かれたと言っても過言ではない程だ。
4楽章のアレグロ・コン・ブリオも、ホルンによるアクセントも含め、フルオケに勝るとも劣らない気迫が伝わってくる。コントラバスによる支えがある事で、低域の安定度が増していることもその要因の一つだが、コントラファゴットの低域の動きがカッコよく、管楽アンサンブルで果たす役割も大きい。先日コンサートで聴いたアルプス交響曲でもコントラファゴットはシブい活躍ぶりだった。
既に通常のオケ版ではラファエル・クーベリック&ウィーン・フィルの'70年代の名盤もエントリーしたが、ここではウィーン・フィルの伝統が息づくウィーン管楽協会アンサンブルの名手達のメロウなサウンドを堪能できるのが嬉しい。
このディスクのカップリングには、「グラン・パルティータ」の原曲となったモーツァルトの「管楽8重奏のためのパルティア」というこれまた珍しい曲が収録されている。ここでは一般的に知られている13声部、7楽章の曲編成ではなく、8声部、4楽章でのスタイルとなっており、この曲の変遷を辿る意味でも貴重だ。ちなみに世界初録音という。
余談だが、この「交響曲第7番」の管楽器アンサンブル版出版の折に、弦楽5重奏版やピアノ3重奏、2手および4手のピアノ編曲版と何と計5つのベートーヴェンによる編曲版も出版されたという。当時のベートーヴェンはよっぽどこの曲に自信を持っていたのか?それとも、生活に窮していたのか・・・?このディスクを通じて編曲家ベートーヴェンとしての意外な一面も伺わせてくれた(^^)