ニューヨーク、というとジャズ・プレーヤーが集う街のイメージがあるが、クラシックの世界においても、例えばニューヨーク・フィルの金管セクションのメンバーはジャズ・ナンバーも難なくこなせるつわものプレーヤー集団だと思う。
初めてそれを実感したのは高校時代のナガサワ先生(もうお馴染み(^^;)がやはり音楽鑑賞の時間に見せてくれた人気俳優・コメディアンのダニー・ケイが1981年9月にニューヨーク・フィルを指揮した「ダニー・ケイとニューヨーク・フィルの夕べ」のVTR。各々の楽器セクションが名曲のフレーズを紹介する中、トランペットセクションがスタンドプレイで「ベニスの謝肉祭」をジャズ風に吹きこなした時のカッコよかった事!
ジョセフ・アレッシはそんなニューヨーク・フィルの現在の金管セクションを支える一人で、トロンボーンの首席奏者(1985年以降)。
そんな彼がブラス・アンサンブルをバックにポピュラー曲を中心に奏でたソロの最新アルバム「Bone-A-Fide Brass」を聴く(2005年6月録音、ファースト・プレスビテリアン教会にて収録、SUMMIT海外盤)。
「枯葉」や「スターダスト」といったスタンダード・ナンバーの他に、リムスキー=コルサコフの「熊ん蜂の飛行」のフレーズが随所に出てくる「Green Bee」というしゃれた曲もある。
また、「Someone Cares」という曲は初めて聴いたのだが、トロンボーンを吹いている人なら、一度は吹いてみたいと思わせるバラード調の感動的な曲。トロンボーンという楽器の特長を前面に出すにはうってつけなピースだと思う。
アレッシ関連で初めて購入したのは「Four Of A Kind 2」トロンボーン四重奏のアルバム(2001年3月13~16日録音、ザ・アカデミー・オブ・アーツ・アンド・レターズ、ニューヨークにて収録、SUMMIT海外盤)だった。フィラデルフィア管弦楽団やサンフランシスコ交響楽団の奏者で構成されており、現在のアメリカのトップ・オケのトロンボーン・サウンドの醍醐味が味わえる。メンバーの一人、スコット・ハートマンは高校時代に実演を聴きたくてサントリーホールまで聴きに行った憧れのブラス・クインテット、エムパイヤ・ブラスの元メンバーだった。
トロンボーン四重奏というのは普段中々聴きなじみのないが、ここでは中低音の心地良さを堪能できる。トロンボーンは、弦楽器でいえば中音域のチェロのような落ち着きも持っている楽器だと思う。例えば展覧会の絵の「カタコンブ」はトロンボーン・セクションのアンサンブルの腕が試されるテストピースになり得そうだ。
曲はロッシーニの「セビリアの理髪師」でスタート。バッハの「フーガ」や「シャコンヌ」といったバロックものも、こういう四重奏で聴くと新鮮だし、意外とトロンボーンにもハマる。好アレンジというか、素晴らしいトランスクリプション。
でもこのアルバムを購入したメインの目的は後半のスタンダード・ナンバーだった。ビリー・ホリデイの「God Bless The Child」にハロルド・アーレンの「It's Only Paper Moon」と「Take Me Out To The Ball Game」の3曲だ。特に「Take Me Out To The Ball Game」はCDのジャケットだけでなく盤面にもそんなデザインがあしらわれており、実にユニークだけでなく、演奏自体もジャズ・フィーリングたっぷりでノリノリ!大リーグでは、地元チームが7回裏の攻撃に入る前に観客全員で歌うのが慣わしという。この曲がトリとして収められているあたり、彼ら定番のアンコール・ピースでもあるのだろう。
どこかで聴いた曲だなと思ったら、最近までこの曲、日興コーディアル証券のイチロー出演のCMで流れていた曲だった(^^)
ニューヨーク・フィルには金管奏者5名からなる「ニューヨーク・フィル・ブラス・クインテット」があり、社会人になって2年目の1999年に聴きに行ったのを覚えている。
シノーポリ時代のフィルハーモニア管を支えたジョン・ウォーレス同様、晩年のレナードバーンスタイン&ニューヨーク・フィルを支えた首席トランペット奏者(1981年以降)、フィリップ・スミスがリーダーとなっている。彼はシカゴ響の歴史に残る名奏者、アドルフ・ハーセス退任後のアメリカ・トランペット界を引っ張る第一人者かもしれない。それもそのはず、フィリップ・スミスはニューヨーク・フィルの移るまではシカゴ響でハーセスと共に吹いていた縁もあった。
折りしも大リーグが盛り上がっている。彼らの「Take Me Out To The Ball Game」の演奏が試合の余興で演奏されたらたまらなく、カッコいいだろうなあ・・・。