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クリスマス・シーズンにぴったりなバッハ1734年の名作「クリスマス・オラトリオ」。中でも第6部の最終曲である「コラール」は約4分弱という短さながら、何とも温かい気持にさせてくれるお気に入りの楽曲だ。冒頭からトランペットが活躍する華やかな曲でもあり、親しみやすく喜びに溢れた雰囲気に、この曲を聴く度幸福な気分に満たされる。
この最終曲の「コラール」はブラス・アンサンブルでも愛奏されるレパートリーとなっており、自分自身、「クリスマス・オラトリオ」との出会いはこのブラス・アンサンブルによる演奏がきっかけとなった。
バッハは気難しくてちょっと・・・と思う人がいれば、この「コラール」から聴き初めてみてほしい。バッハのイメージが変わる曲だと思う。今宵は、CD棚よりブラス・アンサンブルものを2曲、モダン・オケものを2曲、古楽オケものを3曲、計7種類の「コラール」を改めてじっくりと聴いてみた。(以下、画像左上より右回り、中央はアーノンクール盤)

【ブラス・アンサンブル】
○フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル
 ('82年1月録音、キングスウェイホールにて収録、デッカ国内盤)


アルバム「ノエル」に収録。通常コントラバスのパートはここではチューバのジョン・フレッチャーが担当。そのチューバが子気味よく動き、アンサンブルに快活さをもたらしている。このアルバムではオープニングとして収録されているだけに、これからどんな演奏を聴かせてくれるんだろうと期待を抱かせてくれる。編曲はメンバーのトランペット奏者、ピーター・リーヴによるもの。ちょうど高校2年の頃、確か秋葉原のCDショップでこの憧れのフィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルのクリスマスアルバムを存在を知り、わくわくして購入したのを憶えている。初めてこのディスクに出会ってから、もう15年以上の時が過ぎた懐かしいディスクだ。

○まあくんず
 ('99年8月16・17日録音、所沢ミューズ アークホールにて
 収録、スタジオフローラ国内盤)


「まあくんず」は'98年に結成された8人編成のトランペット・アンサンブル。一風変わったこの団体名は、リーダーである東京交響楽団首席奏者の大隈雅人氏の名前から取られた名称。「まあくんず プレイ バッハ」と題されたオール・バッハ・アルバムの最終曲に収録。8つのトランペット・アンサンブルが奏でる響きがパイプオルガンのサウンドと見事に溶け合い、まるでヨーロッパの大聖堂の中?と思わせる程の美しいハーモニーを聴かせてくれる。特に主旋律を奏でるピッコロ・トランペットの柔らかな響きは、同メンバーで、東京都交響楽団の首席奏者として活躍している高橋敦氏によるものだろうか?ジャーマン・ブラスの名奏者、マティアス・へフスと好勝負かもしれない(^^)
改めてブラス・アンサンブルとバッハの作品はよく似合っている事を伺わせる。ちなみにこの演奏はiPodへの必携アイテム曲になっている(^^)

【モダン・オケ】
○カール・リヒター指揮 ミュンヘン・バッハ管弦楽団
  ミュンヘン・バッハ合唱団、他
 ('65年録音、ヘラクレスザール、ミュンヘンにて収録、アルヒーフ輸入盤)


いつもは厳かなバッハを繰り広げるリヒターながら、ここではリヒターよりもトランペットの神様、モーリス・アンドレの存在感が一際目立つ演奏になっている。この「コラール」でのピッコロ・トランペットはまぎれもなくアンドレの音だろう。まるでトランペット協奏曲のように聴かせてくれるアンドレの吹きっぷり・・・その豊かな音色がこの終曲に輝かしさをもたらしている。

○ゲルハルト・ヴィルヘルム指揮 シュトゥットガルト・アンサンブル'76
 シュトゥットガルト・ヒムヌス少年合唱団、他
 ('82年12月、'83年1月録音、カールスへーエ教会、ルードヴィヒスブルク
 にて収録、ヘンスラー・クラシック国内盤)


少年合唱団によるいわゆる聖歌隊編成での澄んだ響きがとても心地よく、ゆったりとしたテンポながらも個人的には最も親しみがわく演奏。ジャケットもかわいい(^^)トランペット・セクションも充分聴かせてくれる。
ドイツのヘンスラー・クラシックによる録音だが、発売元は日本コロムビアとなっている事から日本のDENONが世界に誇るPCMデジタルによって録音されている。教会での収録という事もあり、残響豊かな優秀録音に仕上がっている。

【古楽器オケ】
○フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮 コレギウム・ヴォカーレ管弦楽団
 同合唱団、他 
 ('89年1月録音、ヘントにて収録、ヴァージン・クラシックス輸入盤)


古楽オケはモダン・オケと違い、ピッチも低いせいか落ち着いた音色に聴こえる。モダン・オケではどちらかといえば突出していたトランペットもここでは木管や合唱と溶け合い、まろやかにブレンドされたハーモニーが美しい。そんな古楽ゆえのサウンドだろうか、有機的な響きのする演奏だ。
コレギウム・ヴォカーレ管弦楽団はベルギーの指揮者、フィリップ・ヘレヴェッヘが'71年に創設した古楽器団体。古楽の道に進む前は医学と精神医学を学んでいたというキャリアは、イタリアの名指揮者、故ジュゼッペ・シノーポリを思わせる。古楽器オケの3種のディスクの中では最もスタンダードな演奏といえると思う。低域ラインの動きもくっきりと録れた聴きやすい録音だ。

○ハリー・クリストファー指揮 オーケストラ・オブ・ザ・シックスティーン
 ザ・シックスティーン、他
 ('93年1月録音、ロンドンにて収録、Collins輸入盤)


'77年に創設された古楽や宗教曲を中心とするロンドンの合唱団、ハリー・クリストファー率いるザ・シックスティーンが自前のオケと録音した演奏。
ヘレヴェッヘ盤に比べると、やや音楽的な推進力が欠けるが、さすが合唱専門の団体だけに、アンサンブルの精度は高い。トランペットにロイヤル・フィルやナショナル・オペラの奏者としても活躍していた名手クリスピアン・スティール=パーキンスが参加しているのも演奏に華を添えている。

○ニコラウス・アーノンクール指揮 ウィーン・コンツェントス・ムジクス
 アーノルド・シェーンベルク合唱団、他
 ('06年12月、'07年1月録音、ムジーク・フェラインザール、ウィーンにて収録、
 ドイツ・ハルモニア・ムンディ輸入盤)


今回取り上げたディスクの中の最新録音。古楽界の大御所、アーノンクールならではの個性が垣間見られる演奏。以前彼らの演奏による「メサイア」のディスクを聴いた時も同感だったが、曲への先入観をいい意味で裏切ってくれる愉しさがある。ここでの「コラール」には、今回取り上げた他のディスクにはないフレーズの抑揚や音に伸びが感じられ、それが聴き手に新鮮な空気をもたらしている。アーノンクールならではの研究解釈に基づいたものなのだろうが、リヒターやヘレヴェッへにもない大胆なアプローチを感じさせる演奏だ。地元ウィーンのアーノルド・シェーンベルク合唱団も名唱をきかせてくれる。