梅雨が明けた途端、猛暑となった今年の夏。エアコンなどの外気対策ではとても納涼気分でいられない。内からの納涼に、と、ホルストの「惑星」を。以前もギブソン&スコティッシュ・ナショナル管の名盤をエントリーしているが、今回は全てロンドン交響楽団によるアルバムで統一してみた。ロンドン交響楽団といえば、「スター・ウォーズ」のサントラを思い浮かべるだけに、宇宙ものにも抜群のセンスを発揮。自分にとっては、第4曲の「木星」は高校時代、吹奏楽部の文化祭で演奏したお気に入りの曲。さて、納涼気分に浸れるか?(ジャケット:左上より時計周り)
○ジェフリー・サイモン指揮 ロンドン交響楽団&LSO女声合唱
(1987年7月録音、All Saints’ Church,Tooting,Londonにて収録、LASERLIGHT海外盤)
ロンドン響を含めた全ての「惑星」アルバムの中でも上位にランクインするマイベスト盤。まず、テンポの運び方がピカ一。ロンドン響の機能美に長けた演奏で、彼らの「惑星」のサウンドカラーは、まさに元祖「スター・ウォーズ」とでもいえるもの。サイモンはフィルハーモニア管やロンドン・フィルとも「惑星」以外のレパートリーをレコーディングしているが、ロンドンのオケとの相性は極めて良いようだ。それは彼自身、ロンドンの主要オケのメンバーによるパート・セクション別のアルバム(本ブログでも過去、ヴァイオリン・パートやホルン・パートによる企画アルバムをエントリー)のプロデュースを行っている事からも窺える。
第6曲「天王星」の後半部で、トランペット(おそらく首席のモーリス・マーフィーだろう)の耳をつんざくようなハイトーンの豪快さもサイモン盤ならでは。ロンドン響のサウンドのツボを心得た演奏といえるだろう。残響も充分な録音で納涼感に浸れる。
○リチャード・ヒコックス指揮 ロンドン交響楽団&ロンドン・ヴォイシス
(1987年7月録音、アビー・ロードスタジオ、ロンドンにて収録、IMP輸入盤)
2008年に惜しくも60歳という若さで亡くなったヒコックスによるもの。ヒコックスにとっては「惑星」はある意味、レアな選曲だが、ロンドン響併設のロンドン・シンフォニー・コーラスの合唱指揮者でもあった彼にとって、女声合唱を要する「惑星」はレパートリーに収めておきたかったのかもしれない。ここでは手兵の合唱団ではなく、ロンドン・ヴォイシスを起用。
テンポは各曲とも全体的にややゆったりめで、メリハリの効いたサイモン盤を聴いた後だと、やや物足りなさも残る。後にヒコックスがCHANDOSレーベルでロンドン響と多くの合唱作品をレコーディングしているだけに、貴重な録音。ジャケットの大きな土星も「惑星」らしくて良い。
○サー・コリン・デイヴィス指揮 ロンドン交響楽団&LSO女声合唱
(2002年6月録音、バービカン・ホールにて収録、LSO海外盤)
1997年のロンドンでのプロムス公演で、実演に接したデイヴィスによるもの。彼の英国音楽への愛情と共に、ロンドン響のデイヴィスへの敬愛ぶりが窺われる演奏。
ライヴながら、難易度の高いブラスセクションもノーミスで、非常に高い完成度といえるだろう。唯一残念なのは、収録会場であるバービカンホールのデッドな音響。自分も当時、このホールでコンサートを聴いたが、残響感には乏しかった。それだけに、この音場でハイレベルな「惑星」を聴かせてしまうロンドン響は素晴らしい。
○グスタフ・ホルスト指揮 ロンドン交響楽団
(1926年録音、EMI国内盤、非売品)
作曲家自身による貴重な録音。これはEMIクラシックスの非売品の特典盤に「木星」のみが収録されたもの。「木星は」他の3つのアルバムより1分以上(6分台)、早いテンポである事にまず驚かされる。当時は、まだ斬新な現代曲だったに違いないが、今の時代にこの演奏を聴いても新鮮味を感じる。
もう一つ驚かされるのは、当時のロンドン響の演奏レベルの高さ。SPの時代だけに、おそらく一発録りだったと思われるが、ホルストの早いテンポ設定にも見事にくらいついて応えている。ホルストにとっては初演の3年後の1923年と1926年の2回に渡り録音を行っているが、これは2回目のもので、ホルスト自身もロンドン響のレベルの高さを見込んでの事に違いない。録音も、鮮明に聴き取れるのが嬉しい。