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ウォルトンには、前回エントリーした戴冠式行進曲の名作2曲以外に、映画音楽の分野でも、実に素晴らしい作品が残されている。その一つが、1942年制作の映画『スピット・ファイア』のサントラとして作曲された「前奏曲とフーガ」という曲。スピット・ファイアとは第2次世界大戦で活躍した英国空軍の戦闘機。ウォルトンにとっては最初の映画音楽作品で、映画音楽の分野でも一躍脚光を浴びるきっかけとなった。
「前奏曲」部分は、この映画音楽のオープニングタイトル。冒頭、ブラスによるファンファーレで開始され、その後に奏でられるテーマは、実に壮大なスケール感があり、戴冠式行進曲でも漂っていた英国風の気品を感じさせる。続く「フーガ」は、スリリングな曲調で展開されるが、クライマックスは「前奏曲」のテーマが回想され、堂々としたエンディングで終結する。現代の映画音楽に勝るとも劣らない、名サントラだと思う。
飛行機がテーマになった有名曲といえば、以前ブログでも取り上げた「サンダー・バード」を思い浮かべるが、こちらはフィクションではなく、ノン・フィクションの乗り物。しかしながらいずれも同じ英国産だ。
現在所有している4種類の演奏を改めて味わってみたい。(ジャケット画像:左上より時計回り)

■ブラス・アンサンブル版:
フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル
 (1976年録音、ロンドンにて収録、デッカ輸入盤)


初めてこの曲の存在を知るきっかけとなった演奏。吹奏楽部に所属していた高校時代に、いずれこんな曲が演奏できたら…と憧れていた曲であり、演奏だった。
オケ版に迫る緻密なアレンジを担当したのは、フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルの中心的な存在だったエルガー・ハワースによるもの。当初、ブラス・ブラスアンサンブル版が、オリジナルと思ったほどで、ピッコロ・トランペットも随所に使用され、ブラス・アンサンブルに映えた編曲となっている。彼らの英国気質が垣間見える高貴な演奏だ。

■吹奏楽版:
ザ・バンド・オブ・ザ・スコッツ・ガーズ
 (2002年5月録音、にてロイヤル・ホスピタル・チャペルにて収録、SRC輸入盤)


英国5大近衛兵の一つ、スコットランド近衛兵に所属するザ・バンド・オブ・ザ・スコッツ・ガーズによるもので、ウォルトンだけの作品が集められたアルバム収録曲の一曲。冒頭のファンファーレがとても勇ましく感じるのは、さすが軍楽隊といったところ。自国の作曲家だけに、演奏回数も多い曲なのだろう、実に堂々とした推進力ある演奏となっている。
吹奏楽版には、一度実演に接した事がある。高校時代、当時のトランペット・パートのパートリーダーが、中学の出身校のOB吹奏楽団に出演した演奏会を聴きに行った際のオープニング曲だった。実演での感動に浸れたと共に、OB吹奏楽団の堂々とした吹きっぷりの良さに感動したものだった。

■オーケストラ版:その①
ネヴィル・マリナー指揮 アカデミー室内管弦楽団
 (1990年3月録音、聖ジュード教会、ロンドンにて収録、CHANDOS輸入盤)


ストリングスが加わると、サウンド全体に拡がりが出てやはり感動的。ゆったりとしたテンポによって、この曲の持つ雄大さと気品さが醸し出されており、マリナーならではの手腕が光る。
アカデミー室内管弦楽団」はどちらかというと日本国内向けの名称で、現地の通称は「ザ・アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ」。編成には柔軟性を持てるオケだけに、ここではブラスがある程度増強されているようだ。ブラスのメンバーには、フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルの元メンバーも名前を連ねており、ブリリアントな響きを感じる。録音・演奏共に現時点でのマイベスト盤。

■オーケストラ版:その②
サー・チャールズ・グローヴズ指揮 ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団
 (1969年6月録音、フィルハーモニックホール、リヴァプールにて収録、EMI輸入盤)


英国音楽界の重鎮だった指揮者、サー・チャールズ・グローヴズ(1915-1992)がロイヤル・リヴァプール・フィルの首席指揮者時代(1963~1977)に残した音源。1970年前後のステレオ中期の頃の録音で、多少音源の古さが否めないが、マリナー盤よりも早めのテンポ感は、むしろ映画音楽としてのこの曲本来が持つテンポとして相応しく、聴いていて爽快な気持ちになれる。まだウォルトンのディスコグラフィーがあまりなかった時代の録音だけに、当時から自国作品を積極的に取り上げてきたグローヴズの姿勢はさすがで、貴重な音源。